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『淫らな人間に見えると言うなら貴方を殺します』

「その前に、何故朝帰り前提の話なのですか。如何いう状況を想像しているのかお聞かせ願えますか」 「恋人と一緒に過ごすならすることは一つだけです。錦が大人になる日が思ったより早かったので、作法を教える時間が有りませんでした。実に無念」  作法? 「先生は俺に何を教えるつもりだったのですか」  酒を飲みまた菓子を食う。 「情操教育の一環として、幹部御用達の料亭にでも連れて行こうかと思っていたのです」 「?」 「利用用途は様々ですがね。娼館の役割も果たしているんですよ。海輝さんと交際していなければ、いずれは見目麗しい女性を宛がい筆卸でもと考えてはいたのです。しかし相手が男性であれば、ここは仕込み屋に手ほどきをと考えまして。あぁ、安心なさい。仕込み屋と言っても、厭らしいひひ爺ではありませんから。 性技に長けている若い男性で容姿も整っておりますし、用途により人数もそろえております。緊縛が得意な佐渡君、舌技が素晴らしい小笠原君はお勧めですよ。しかし海輝さんですからねぇ。手解きを受けたと知れば、連続殺人事件が起きる可能性が高まりますかね」  比類なき美貌と頭脳の持ち主と名高い男は、同時に奇人変人の類でもあると悪名を轟かせていた事を思い出し眩暈がした。 「なんてひどい話だ耳が腐る。つまりは淫行の作法という事ですか汚らわしい! 貴方をまともだと思った俺が馬鹿だった!! 俺が恋人以外に体を許す貞操観念の無い淫らな人間に見えると言うなら貴方を殺します」 「反抗期ですか」 「若狭様、書き留めで海輝様より錦様宛に郵便物が届きました」  佐々木が使用人伝いで渡された専用封筒を錦に差し出す。  錦、と若狭に声を掛けられ開封すれば、紺色の洋封筒とプリントアウトした地図がクリアファイルにセットされていた。  糊付けされていない洋封筒のフラップをめくると、天体が印刷されたチケットが覗いた。  ドームシアターの入館券とセットになった鑑賞券と座席指定券だ。  そして二つ折りのメッセージカードを開いた時、こんな状況なのに心臓が跳ねた。  海輝直筆のメッセージだ。

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