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『相手がいなくては恋は出来ませんから』

「学校に行かず自堕落な生活をし規則を邪教の如く憎み、夜の繁華街を練り歩き喧嘩に明け暮れて、恐喝などをしていたというのですか!?」 「あぁ、何だか甘い物が食べたいです」 「話をそらしても無駄だ」 「お前は創造力が豊かなのか乏しいのか……」  揚げ物に続き蒸し物が運ばれるが、若狭は一切手を付けず「分福茶釜」を模した菓子鉢を引き寄せる。  蓋を外し花を模る干錦玉を摘まみ口に放った。 「俺の話を聞いていますか」 「聞いてますとも。別に道は踏み外していないでしょう。恋人と過ごすのにそこまで自らを律する必要はありますか。相手がいなくては恋は出来ませんから、相手がいるなら大事にしなさい」 「学校を休むのは如何なものかと」 「お前が学校を休んだからと言い、為替相場が変動するわけでもありません。太陽は変わらず東から昇り西へ沈みます。世界に何の影響は有りませんので安心しなさい」 「規則を破れと?」 「朝帰りした結果、学校に行ける状態ではない場合を前提に言いますけどね。故意に規則を破る訳ではありません。体調不良なのでお休みすると言う意味です。普段から自宅学習も真面目にこなしているのだから、一日休んだくらいで成績が下がる事も無いでしょう」  何という屁理屈だ。  そう言えば、十代の海輝の教育にこの男が随分とかかわったと聞いた事がある。  海輝がやたら屁理屈をこねるのも、まさか彼の影響ではあるまいかと勘繰る。

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