27 / 245
『貴方と心中する気もない』
「若狭様が運転すると仰れば、更紗様のお迎えと言う名目で錦様が同乗されなくても運転をなさるでしょう。ご心配ならば、助手席で若狭様の運転を見守って差し上げるのはいかがでしょうか」
「何だその理屈は!?」
「カササギとして海輝さんの所に送り届けようと考えておりましたが、錦が遅いのでもう私一人で行ってきます」
「タクシーを呼びます」
踵を返すと、佐々木が行く先を遮る。
そして「失礼いたします」と何故か錦の頭にヘルメットをかぶせた。
どういう事だ。
「若狭様。我々もお供させていただきますので、決してお一人ではありません」
眼鏡をかけた部下が言葉を添え運転席のドアを開ければ、若狭が乗り込む。
そう言えばこの眼鏡どもは誰一人として若狭の飲酒運転に触れない。
錦との会話を聞いて居れば飲酒した事が分かる筈なのに、三人も居ながらどういう事だ。
助手席の窓が降り「錦早くしなさい」と若狭が急かす。
「ほら、早く同乗し見張って差し上げて」
「貴方が見張れば良い。俺はタクシーに」
「夜分騒いでは迷惑でしょう。佐々木 」
「畏まりました」
失礼いたしますと、錦を引き寄せドアを開き強引に押し込んだ。
抵抗する間もなく助手席に収まり、ドアが閉まるとエンジンがかかった。
運転席に若狭、助手席に錦、命令をされ後部座席に部下の佐々木が乗る。
なんだこの席順。
「上司に運転させるというのは如何な物だろうか。貴方が運転すべきだ。先生、彼と運転を替わりましょう」
「失礼な子ですね。そんなに小心とは知りませんでした。佐々木、サンスクリット語で念仏でも唱えてあげなさい」
「小心以前にまともな神経の持ち主であると訂正していただきたい」
第一念仏など唱えられれば余計に気分が塞ぐ。
「錦様、貴方の事は私の命に代えてもお守りいたします」
死を覚悟するとは、彼もまた若狭の運転技術を信用していないのだ。
「貴方が死んで俺が助かる確証はない。それから貴方と心中する気もない」
死ぬなら海輝とが良い。
ともだちにシェアしよう!