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『優しい表情の下で見せる、独占欲と執着』
――行動して示してみろと、挑発しているのが分かる。
突き放すように好きにしても良いと言いながらも、彼は九十九パーセントの確率で錦が背を向けない事を知っている。
経過はともかく、結果的には錦が思い通りに動くであろうと確信している。
しかしそれでも、百パーセントの肯定ではない。
今回の再会は僅か一パーセントとはいえ、自分以外の誰かが否定的な要因となっている事を知っている。
今の時点では、更紗がそうだ。
予定調和であっても、錦に関しては自分以外の異例を悪しき異物の如き彼は嫌う。
海輝は錦との間に、互い以外の誰かの存在を決して許すことは無い。
彼は九九パーセントの肯定確率があっても百パーセントでない場合、残りの一パーセントの否定を酷く気にする。
だから、錦の意思でもって残り一パーセントの否定を肯定に変えたいのだ。
お膳立てをしながらも、自らの意思を見せろ再会を希えと訴えているのが分かる。
錦に関しては、完全な肯定を望む。
優しい表情の下で見せる、独占欲と執着。
愛されているのだろう。
それは、理解している。
しかし、試されるのは好きではない。
「アレは俺を馬鹿にしているのか。疑われるのも試されるのも好きじゃない」
何よりも、挑発とは言え錦に選択の余地を残すと言う余裕も何だか気に入らない。
対等な関係ではありえない事だ。
溜息まじりに怒りを吐き出し独り言ちた。
「恋愛に関しては、臆病になるときもあるものです」
八つ当たりをしたつもりはないが、彼からすれば良い迷惑だろう。
如月は困ったように笑っている。
「――貴方に言うべきことじゃなかった。申し訳ない」
「兄様が謝罪した!? 明日雨が降りますよ」
「最初から明日は雨予報だ。如月さん。更紗が大変お世話になりました」
そう言い、如月に礼を言う。
彼は少し驚いたように錦を見た。
「……二十一時を過ぎてしまった。更紗、どうする。帰りたいか? それとも遅いからこのまま泊まるか?」
「帰ります。枕が変わると寝れません」
実際そんな繊細さを持ち合わせてはいないが、否定はしなかった。
「チェックアウトをする。迎えを呼ぶから準備しろ」
此処に来たときの騒ぎを思い出せば、フロントに行くのは多少気が重いが謝罪もせねばなるまい。
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