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二十一話:『本当は恋しくて仕方が無かった』

「更紗、根本的に勘違いをしている。海輝に懇願されたからでも、脅迫されたからでもない」 「会うつもりは無かったはずです。海輝さんが暴挙にでたのはやはり海輝さんの責任。兄様がその責任を負う必要はない」 「そうだ、会うつもりは無かった。でも会いたくなかったわけじゃない。本当は恋しくて仕方がなかった。これは海輝には関係ない。俺の本心なんだ。海輝に会いたかった。――だから今から会いに行く」  ひゅっと息をのんで絶句する更紗にもう一度「すまない」と謝り、紙袋を持ち上げた。  客室を出てエレベーターホールまで廊下を歩くが、更紗の足取りが重い。  すっかり気を落とした彼に時々視線をやりながらも、機嫌を取る為の言葉も慰めの言葉もかけなかった。  そんな言葉をかけた所で、錦の本心は変わらないし更紗の願いを叶えることも出来ない。  何を言っても、気休めにもならない。 何よりその場限りの誤魔化しに意味はないからだ。  二人の前を歩きながらスマートフォンを弄っていた如月が「錦様はこのまま海輝さまの所へ向かってください」と振りむく。 「お迎えは呼んでいます。それからフロントへの謝罪なら不要です。あの騒ぎは、若狭様およびその部下三人が引き起こしたもの。錦様が謝罪する必要はありません」 「そう言う訳にはいかない」 「そんなに謝罪をしたいのなら、海輝様になされば良い」  エレベーターは一定の距離を置き四台設置されている。  ホール前に辿り着けば、若狭を追走した件の七三分けの眼鏡の部下が歯を見せ爽やかに微笑んだ。  いつどこで着替えたのかは不明だが、紺色のスーツに変わっている。  如月が頭を下げる。  まさか、迎えとはこの男の事なのか。

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