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『答えは決まっていた。変わる事は無い』

 乗場ボタンを力強く連打しながら「話は全て聞いております。更紗様の事ならお任せ下さい」と胸を張る姿に踵を返したくなる。  隣のエレベーターのボタンを如月が押す。  乗場位置表示器の動きを見ながら、如月に小声で話しかける。 「……彼に更紗を任せるのは危険だ。好意を踏み躙るつもりはないが、言わせてくれ。人選に悪意を感じるぞ」 「若狭様が関わらなければ、ごく普通の眼鏡さんですよ」 「そのごく普通の基準が、一般常識の範囲内に収まってるとは限らない」 「兄様、やはり一緒に帰りましょう。七夕は僕と過ごしましょう」  一階ずつ上昇する表示器を見つめていた更紗が錦を縋る様な瞳で見てくる。  潤んだ円らな瞳を見ると罪悪感を感じた。  しかし、歩みを止める訳にはいかない。 「――帰らない」 「あの人と過ごして無事でいれるんですか」  言葉を変えて引き留めるが、答えは決まっていた。  変わる事は無い。 「あの男が俺に酷い事をするはずはない」 「それ、兄様の口癖ですね」  錦は悲し気な表情をする更紗の頭に手を置き、不器用に動かす。 「兄様は、あの人に振り回されて奪われてばかりだ」 「まるで俺が被害者の様な言い方だが、語弊がある。彼は俺の恋人だ。振り回しているのはお互い様だし、それに奪われてるんじゃない。捧げるが正しい」 「あの人にバリバリ食べられちゃいますよ」 「構わない。恋人と過ごしてすることなんて一つだけらしいぞ」

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