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『諸悪の根源はあの人』
軽やかな音と共に、緒方が立っている側のエレベーターが先に到着する。
「……誰ですか箱入りの錦兄様にそんなこと教えた人! あぁ、一人しかいませんでしたっ。もう諸悪の根源はあの人かっ! 葛餅の精霊みたいな格好しやがりまして」
先に開いたかごに乗り込んだ緒方が、戸が閉まらない様に操作盤のボタンを押す。
鼻を鳴らした更紗が乗り込み、こちらを見つめてくる。
諦めが悪い。
「……フルーツサンド買って帰るから泣くな」
「泣いてませんから!」
ドアが閉まり下降するのを表示板を見て、重い溜息をつく。
上手く行かないものだ。
「意外にも情熱的なんですね」
エレベーターを待つ如月に声をかけられ罰悪くなり目をそらす。
後悔はするだけ時間の無駄だが、プライベートな会話をしていたのは軽率だった。
錦個人の事ではない。
海輝の事を聞かれたのが多少気まずい。
彼は海輝の部下なのだ。
今更なのだが不都合が生じたら困る。
「恥ずかしい所を見られたな。早急に忘れてください」
「――錦様と会話をしたら、全て海輝様に報告をするように命令されています」
……。
海輝にすべて筒抜けになるというのか。
絶望した。
するとポケットから小さなキューブ型のキーホルダーを出す。
物凄く嫌な予感がした。
「会話の内容はすでに海輝様に通じていますが、どんな表情だったかは錦様に相応しい形容詞を使い述べなくてはなりません。監視カメラでご確認いただいた方が、宜しいのではと思うのですが……」
一瞬、帰ろうかな……なんて言葉がよぎる。
錦は無言になり到着したエレベーターに乗り込んだ。
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