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『にらみ合い』
「……え?海輝様はまだお戻りではないの?」
気安い口調で尋ねる如月を無視し、錦に部屋に入るように促す。
「彼はいつ戻りますか」
「存じておりません」
そっけない返事に如月が謝罪をする。
錦は溜息をつく。
かちりと金属音が鳴り、男がほんの少しだけ眉を顰める。
開錠後一定の時間を置いたから、セキュリティシステムが働き自動的にロックされたのだ。
「そうですか。俺を此方に案内し終えた時点で貴方方の役目は終わったと言う事ですね。お疲れさまでした」
扉から離れようとした錦に如月が慌てる。
「錦様? 何方へ」
「彼の所に行きます」
如月のポケットを見つめる。
聞いてるか、この卑怯者め。
「お待ち下さい。海輝様からのお願いを聞いて頂けませんか」
何が「お願いだ」。
ふざけているのか。
蛇食鷲の様な顔をしやがって。
「断る」
海輝がいないならここに居ても仕方がない。
「お待ちください」
「まだ何か」
「海輝様はお休みになるよう仰っていました」
「だから何だと言うんだ。了承する義務はない」
錦は冷ややかに見上げると、同じように冷ややかな目が返される。
「ご了承いただきたく存じます」
「貴方の仕事内容は?」
「お答え致しかねます」
男は感情を吐露する事は決してなかったが、やや苛立ちを感じているようだ。
予想または予定では海輝の宿泊する客室に、錦が大人しく留まるものと思っていたのだろう。
「貴方の仕事は俺をこの部屋に送り届けることでは? 俺がこの部屋に入るまでが仕事ならば問題ない。部屋に入ったとしても、海輝がいないので俺はすぐに出かけるだろう。どちらにせよ結果は同じだ。貴方は忠実に職務を全うした」
如月が「錦様、行き違いになるといけませんし時間も遅い。お部屋で待たれては」と男に助け船を出す。
錦も男も如月を無視しにらみ合った。
「退けてくれないか」
「何処に向かわれるおつもりですか」
「同じことを言わせるな。海輝の所に行く」
錦は目の前に立ちはだかる二人を避ける様にエレベーター目指し足を踏み出す。
すると背後から左上腕を掴まれ引き戻された。
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