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『忠告はした』

「如月、開錠しろ」   男が低く命じる。 「え、でも」 「海輝様のご命令だ。如月、錦様を部屋へ」 「部屋への案内は不要だ。手を放してもらおうか」 「申し訳ございませんが、海輝様に従って頂きます」  左腕を掴んだまま、男は微動だにせず錦を高圧的な視線で捉える。  見れば見る程、蛇食鷲のような顔をしている。  錦は溜息を吐き、右手で男のネクタイを巻き込む形で掴んで引いた。  予想外の行動に男が目を見開く。  上腕を掴んでいた手が緩み錦はそれを払う。 「行動制限されるのは不快だ。お前の立場など知らん」 「此方とて貴方の感情など知ったことではない」 「頑固な男だ」 「貴方程ではありません」 「海輝の部下ならもう少し融通が利いた方が良いな」 「ご指摘頂き有難うございます」  互いに一歩も引かずにらみ合う。 「退け」 「お断り致します」 「そうか」  体重をかけリードを扱う様にネクタイをさらに強く引き、前のめりにバランスを崩した男を背後に突き飛ばすように 曲げた左前腕で下から喉元を押さえつける。  ガタンと大きな音がし扉に背を強打した男の表情が歪む。  錦は力を緩めずに、重心を男に移して扉に押し付け固定する。 「錦様っ何を?」 「動くな如月」  静かに、それでも鞭うつ鋭さで牽制をする。  男の喉元を抑えていた腕をずらして、拳を握る様に衿を掴みそのまま手の甲を頚部に押し当てた。 「先に言うが忠告はしたぞ」  男は焦りこそ見せないが、瞳に警戒の色を濃くした。  このまま、両手で衿を掴めば簡単に絞め技に切り替える事が出来る。 「私が従うのは海輝様だけだ。――部屋にお入りください」  海輝が戻る気配はない。 「素晴らしい忠誠心だ」  この会話を聞いて居ながらも沈黙をするとは。  悪趣味な男だ。  試されるのは好きじゃないと言っただろ。  漏らすつもりがなくとも、ため息が漏れた。 「錦様っ」 「吠えるな」  錦の苛立ちを海輝は直に感じたはずだ。  男に対する錦らしからぬ乱暴さは海輝にも伝わっている筈。  それでも反応はなかった。  不穏な気配に如月を通し直ぐにでも連絡が入ると期待したが、甘かったようだ。

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