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『星の下を駆けつけてくれるなんて、ロマンティックだね』
「星の下を駆けつけてくれるなんて、ロマンティックだね。夢みたいだ」
まるで、天の川を必死に渡り会いに来たかのようなシチュエーションだと笑い、海輝はそのまま錦を引き寄せた。
「夢かと思った。目覚めたら君が僕の名前を呼んでいたなんて、なんて幸せな事なんだろう」
海輝の上に倒れる様にして抱き込まれる。
ソファベッドの様な造りの席は、たしかに座り心地が良く転がり眼を閉ざせば眠りに落ちそうだ。
縺れる様にしてソファに倒れ込んだ錦を抱きしめたまま頬を撫でる。
「夢じゃない。俺は約束を守る」
光の密度が濃くなり錦は海輝と密着し並んだまま、首だけを天に向けた。
天の川に見とれていると、星が流れる。
錦はほうっと息を吐いた。
「凄い……」
「錦君」
「なんだ。謝罪なら後で聞こう」
少し休みたい。
海輝に会えた喜びと安堵、今日一後の疲労がどっと出て頭がぼうっとする。
疲労がピークに到達すると恍惚感に近い感覚に陥るものだ。
仰向けで星を眺めていると、横に寝ていた海輝が錦に覆いかぶさり頬擦りをしてくる。
「おいっ……」
余り密着してほしくない。
散々走り回ったせいで、汗をかいた後だ。
胸を押し海輝を押しのけようとするが、逆に抱きこまれてしまう。
「怒ってる?」
離れようとしない海輝を宥める様に背中に手を回し、軽くたたく。
「もう怒っていない。でも、二度と関係ない人間を巻き込むな」
関係ない人間と口にすると何故か嬉しそうに耳元で笑う。
「会いに来てくれてありがとう」
それは、錦が怒りにまかせ会いに来たことではない。
ホテルに到着後、部屋に留まらず海輝を探し当てたことを言っているのだ。
「君がホテルに来たのは更紗君の迎えと、僕に怒って会いに来たのは分かってる」
「今回の事は俺にも責任がある。しかし試されるのは好きじゃない」
「欲が出たんだ。君が僕に会いたいと願って行動してくれないかって」
――海輝さんなら天の川が氾濫しても、お前に会いに来るのでしょうね。
若狭の言葉が不意に浮かぶ。
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