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『幼い子供のままでは居たくなかった』
「交遊関係を築くのも大事だろう。俺の事は気にせず食事にでも行けば良い」
「何を言うんだ錦君。僕は君に人生を捧げる事はできても、仕事に人生を捧げるなんて御免だ。仕事とプライベートは別だ」
「付き合いは大事なのでは?」
幼い子供のままでは居たくなかった。
でも、幼いころのまま海輝が受ける熱の帯びる視線を、ただ誇りに思えれば良かったのに。
甘い言葉が世界の全てで、それさえあればもう何もいらないとさえ本気で思っていた。
満たされていたのに、成長するにつれて物足りなく感じる。
与えられるばかりの子供で居るのが嫌だった。
対等で居たいと思い続けていたのに。
どんどん欲深くなるばかりで、単に我儘になっているだけではないかとも思う。
強欲である事、貪欲に求められることは喜ばしい事だと海輝は笑うが、錦はそんな自分が汚らわしく思える。
身勝手な気がして、嫌で堪らなかった。
剥き出しのエゴ程醜いものは無く、最も憎むべき敵なのだ。
崇拝すべきは理性であり、従うべきはコントロールされた感情でしかない。
分かっていても自分の知らない所で彼が誰かに好意を寄せられ、時には求められている事がやはり嫌なのだ。
「確かに大事だけどさぁ。飲み会とか必要なら行ってるよ。ただ、プライベートで誰かと会うのは面倒くさいししないな」
「誘われるたび断ってるのか?」
「そりゃ、純粋に友人として見てくれる人も居るけど、そうでない場合は下手に期待をさせたくもないし、出来れば関わりたくないからね」
――年齢的に結婚や交際を目的とした誘いが増えて来てるとも聞く。
途端、胸中に暗澹たる雲が広がる。
ちりちりと胸を焦がす不快感に酷く動揺した。
表面では平静を装っていても、内面は穏やかではない。
海輝が誰かに好意を寄せられることに不快を感じることに驚いていた。
紛れもないこれは嫉妬だ。
認めたくはないが、どう考えても嫉妬だ。
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