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 二十五話:『言葉通りに受け取ってくれ。頼むから見透かさないでほしい』

彼の目に映って欲しい自分の姿を思い描きながら選ぶ言葉は、本心とはかけ離れているのに。  どれ程の重さがあるのだろう。  海輝の瞳が錦を見つめてくる。  見つめ返し、錦はぐっと苦さを飲み込む。  恋人でいたいならば――迷う必要などない。  子供だと失望されるよりは多少の無理をしてでも背伸びをしている方がずっと良い。 「さっきの如何いう意味なの」  予想では彼はいつもの笑顔で錦を肯定するのだろうと思っていた。  だから一瞬、失敗したのだろうかと不安になる。  ――言葉通りに受け取ってくれ。  頼むから見透かさないでほしい。  祈る気持ちで、歩みを進める。 「何の事だ?」  勘付かれてはいけないと思うのは、取り繕わないと隣に並ぶ自信が無いから。  断罪される気持ちになるのは、後ろめたさがあるから。  素顔を見せず大人の振りをする事を愛されるための努力だと感じているから。  成さねばならぬ義務だと感じているのは、今の自分では海輝の恋人として釣り合っていないから。 「君、本気で言ってるのかな」  でも、そんな胸中を知られるのだけは避けねばならない。  何食わぬ顔で返事をしながらも、恥じらいを忘れる程破廉恥ではないつもりだ。 「何故疑問を持つ。俺はお前を信頼している。お前を束縛するつもりもその理由も無い」  ――いや、充分に恥知らずだろう。  幻滅されるのが嫌だから、恋人に嘘をついて居る。  誠実とは言えない。  まがい物を彼の目に並べているに過ぎない。  では、如何すれば良いのだろう。  如何すれば彼と並んでも恥ずかしくない恋人になれるのだろう。  手放す事も手放される事も出来る筈は無く、秩序無き思考に囚われたまま先に進むことが出来ない。 「ふぅん」  錦の表情をじっと見つめて、言葉を吟味するように「そうかな」と呟く。  海輝にしては少しそっけない声音に、錦は言葉を探すが結局何の返事も出来なかった。  何か問題が有ったのだろうか。  信頼しているから、誰と何をしようと理解し嫉妬も束縛もしない。  例え本心は違っても、恋人としては理性的である様に心がけた言葉だったのだが海輝は沈黙したままだ。  失敗だったのだろうか。  ――そんなはずはない。俺は間違えていない。  波立つ心を落ち着かせる為に、まじないの様に繰り返した。

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