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『大きな責任』

 ホテルに到着すると、破壊されたエントランスドアを前に海輝が足を止める。  ガラスの除去作業は済ませビニールをかけたり応急処置はしているが、依然として大破したままだ。  防犯の為か警備員が立っている。 「……これは……」  ――なんて事だ。  そうだ、本来ならこの惨状を真っ先に打ち明けねばならなかったのに。  錦が事情を説明しようと口を開く前に、ドアマンがかけつけてくる。  簡単に状況報告をし、怪我人の有無を告げるのを海輝は柔らかな眼差しを変えず聞いていた。  説明内容を聞いて錦は愕然とした。  事故を起こした人物が全て別人となっていたのだ。  錦自体が別ルートで移動したことにされているのだろう。  若狭の為に朝比奈側が情報を全て塗り替えたのだ。  海輝は笑顔で頭を下げる。 「怪我人が居なくて何よりです。申し訳ないのですが、この子が風邪を引いたら困るので部屋に戻ります。詳しくは後程」  壊れたインテリアは全て片付けられ、何事も無かったかのように新しく胡蝶蘭が飾られている。  調和を取り戻したロビーだけ見れば数時間前の事故など想像もできないだろう。  凄まじい罪悪感に思わず海輝の腕を掴み頭を下げた。 「錦君?」  死傷者がいないとはいえ大きな損害を与えたのは動かしようのない事実だ。  さらに、若狭の為に海輝の上司は一時的とはいえ情報を遮断した。  仮に情報を得る伝手があったとしても、蚊帳の外へ追いやられたのだ。  部下や上司、朝比奈に対して裏切られたと心証を損なうには充分ではないか。  錦が心配するに及ばないのかもしれないが、海輝の今後が気になった。 「すまない、俺にも大きな責任があるんだ」 「何だい?」 「……若狭先生が俺を此処まで送ってくれたんだ」 「折角のベンツも乗り心地最悪だっただろ? 僕の時はオペラを爆音でかけてて、乗っていたBMWは大破だよ」 「――知っているんだな」

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