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『食い込んだ憂い』
「……すべて曝け出せるほど、俺は強くない」
妥協しようやく出た言葉に満足気に目を細める。
「逆にすべて曝け出せない程に慎み深いともいえるね。君の言葉を聞く限り、僕に嫌われると思ってるのかな」
核心を突いてさらに「杞憂に過ぎない」と言葉を重ねる。
「例えば僕が、三日間洗濯をしていないパンツを履いていたら嫌いになる?」
「ならない。寧ろ、何故その様な状況になったのか理由が気になる。可能なら俺が着替えを用意する」
「可愛いなぁ君は。――じゃぁ、女性用のレースひらひらのパンツ着けてたら?」
「お前がそれが好みなら好きにすれば良い」
「半分ポロリしてても?」
男と女では体のつくりが違う。
機能的な問題で弊害が起こる恐れがある事を踏まえれば、下着は性別に添う物の方が安全だ。
「趣味なら好きにすれば良いが、必要に迫られた選択故に女性用を使用してるなら、一緒に男性用の下着を買いに行く」
「おっ、君の趣味の下着を買ってそれを脱がすのか。うんうん、良いねぇ。期待しちゃうな。ぜひ脱がしてくれ」
「何の話がしたいんだお前」
「つまりはその程度の問題だ」
「……言いたい事は理解できたが、何て例えだ」
「実際は思う程に深刻な問題ではないと言う事だ」
大した問題でなくても、錦にとっては悩みの種なのは間違いない。
さて、ならばどうしたものか。
「分かった。白状しよう。――情けない話だが正直に言うと、自分で自分の気持ちが良く分からなくなる」
食い込んだ憂いは、喉に引っかかる小骨の如くその存在を主張する。
不意に情けなくて恥ずかしくなった。
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