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『この世の誰よりも君を信じる僕を信じれば良い』

「もしも君が失望や幻滅を恐れるなら、それは僕を信用していないからじゃなくて、君が君自信を信じきれていないからだ。自分自身を信じれない人間は、必ず苦難の道へ進む」  海輝を信用しているのに、失望を恐れている。  愛情を感じれば感じる程、幻滅されないのかと心配になる。  そんな事不要だと目の前で笑われても、払拭できない自分が不甲斐なかった。 「君は義理堅く一途だから、君自身が僕に猜疑心を抱いてるのではないかと感じて、罪悪感を抱いているんじゃないか? 僕に疑念を抱く自分が許せなくて、信用に足らないと自己を低く見過ぎているんだ。自分に疑念を感じて、今までの様にコントロール下に置けない感情に不安になってる。初めて触れる感情は期待と共に不安も感じるものだ。理解に及ばない物を目の前にした時は、恐れを抱く」  海輝の声を聴いていると、浮遊感に酔いそうになる。  優しく滑らかに鼓膜を撫で、心地良く頭の芯を痺れさせる。  安堵に身をまかせたくなるが、その誘惑を断ち切り錦は無言で続きを待つ。 「どうしたら良いか分からないなら、この世の誰よりも君を信じる僕を信じれば良い」  予想もしない言葉に思わず無言になる。 「どうしても君が自分を信用できないなら、僕なら間違えていないとその判断を信じれば良い。僕が君の正しさを完璧に証明する」  にやりと笑う顔に思わず噴き出した。 「なんだ、その理屈」 「だってそう言う事じゃない?」  ぽかんと海輝を見つめた錦は、何だか次第に可笑しくなり呆れたように笑うと海輝も嬉しそうに笑う。  すこしだけ、泣きたくなった。  どんな時でも彼は錦の味方だった。  常に錦を肯定し続けた。  そんな彼が変わらず、錦の正しさを証明すると言うのだ。  複雑に絡んでいた不安がほどけていく。 「そんなに難しい事じゃないよ。好きな人に良いように思われたい。誰だって思う事だ。私生活に置いて不要な波風は立てない様にするだろうけど、どうでも良い人間にそこまで気を遣うかい?」 「いや。正直何を言われても平気だ。でも、海輝相手なら平気じゃない」  回りくどい物言いに、彼は錦の頭を撫でる。 「愛だね――おいおい、頬っぺた真っ赤だ。こんな密着した状態でそんな可愛い反応されると、完全フル勃起する自信があるんだけど、どうしてくれる。責任とれるかい?」 「……努力するから、お前も元に戻す努力をしてくれ」 「はははは。キスして良い?」 「馬鹿変態スケベ」 「そりゃ僕ぁ錦馬鹿で錦君限定で変態スケベですから」

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