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『前例も経験もお前以外はいらない』
寂しさを感じていた。
海輝に会いたくてたまらなかった。
「海輝」
名前を呼ぶと、少ししょぼくれた様な顔で「うん」と返事をする。
申し訳ないと思うと同時に、可愛い男だなと思った。
「すまなかった」
「うん。御免ね。何か僕凄く格好悪いね。せっかくのデートなのに気を使わせてばかりで僕こそ御免」
へらりと笑う海輝を錦は無言で見つめる。
迷いも恐れもない凛とした眼差しで、見上げた。
「格好悪くても、お前はこの世で最も良い男だ。俺が保証する」
目を丸くした海輝の頬をそっと撫でる。
もどかしい。
好きとか、愛してるとか。
五指を折れば片手で事足りる言葉なのに。
大事な気持ちこそ言葉にすることが困難だ。
伝える事も容易ではない。
大事であればある程、難しい。
気持ちの半分すらも言い表すのが難しい。
それでも、言葉にすることで変わる事もある。
すでに分かり切っていた事だとしても、きっと彼を幸せにすることが出来る。
抱えた愛情の欠片しか口にする事が出来なくても、きっと。
「――お前が好きだ」
海輝は驚いたように見て、くしゃりと表情をゆがめてそして笑う。
「すまない。俺も恋は初めてだ。如何すれば良いのか分からない事ばかりだ。だけど、最初で最後な事は確かだ。前例も経験もお前以外はいらない。お前が好きだ。海輝、許してくれ」
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