87 / 245

『濡れた声をこぼす』

「乳首くりくりされるのどう? それとも舐めて欲しい?」 「どっちも……あっア、ン……だ、駄目……」  無垢な幼さを脱ぎ捨て、濡れた声をこぼす。  ベッドでの姿を楽しむ声で「良い声で啼くなぁ」と続ける。 「エッチな事されるの好きでしょ」  呻きが喉にこみ上げる。 「――……んんっ」  思わず両手で口を覆い、声を殺し体が跳ねるのを抑えようとする。  刺激から逃れようと体をうねらせる。 「おや、変な所で我に返るね君は。無駄な努力は止めなさい」  鈎の様に曲げた指が小刻みに胸をひっかき、弾いて、押しつぶす。  巧みな指先の動きに乱される。  何処を触れられても甘い戦慄が走り、腰が砕けそうになる。  口に含んだ指を強く噛んだ。  そうでもしないと、どこか遠くに攫われてしまう。 「んっ……ふぅ」 「素直になったり意地を張ったり忙しい。脳内運動会でも開催してるのかな」  昔からコントロール出来ない状況になるとそうだものね。  錦は小さく首を振る。  何を否定したいのかすでに不明だ。 「頑張るねぇ、そういう事されると燃えちゃうなぁ」  俯き震える錦の項を舐め上げて、そのまま強く硬く立ち上がった乳首をひねり上げた。 「あぁっ……ヤダ、痛い」 「長い事君のこと放っていたのに、感度が良くないか? ここは随分性感が鈍かった」 「知るものかっ」  じんじんと痛むそこを摘まんだまま、指先を擦り合わせ先程と違う不思議な感覚に息が弾む。 「んっンッ……海輝っ、優しく………痛いのヤダ」  先程の様に強い刺激を加えられるのは戸惑いが有る。  抱かれるのは良い。  厭らしい言葉で辱められたいわけではない。 「優しく、何」 「だから、痛いっ……乳首、ひりひりする」 「ごめんね」  そっと親指が胸を撫でる。  性感を引き出すものでも、痛みを与えるものでもなく宥める様に優しく動く。  ほっとして指先の動きを意識する。 「まだ痛い?」 「……少し」  本当はもう痛くは無かったが、優しく愛撫されるのが心地良くてもう少しこうしていたかった。  しかし、何時までも乳首を触らせておくわけにもいかない。 「もう離せ」 「ちゃんとスケベな気持ちになったかな?」 「なった。こう言えば満足か」  反抗的に半ばやけ気味に叫ぶ。  密室に声が反響し思わず眉をしかめる。  海輝は面白そうに笑いながら「何になったの?」と尋ねて来た。 「何になったの。誰の所為で何が原因でどういう風にスケベになったの? 錦君がどんなふうにスケベになったか教えてくれるかな」 「俺は助平じゃない」 「奥ゆかしい子だと思っていたのに、なるほどぉ。この程度大したことないんだ? 乳首しこらせてエッチな声で啼いてたのにスケベじゃないなんて、凄いなぁ。君にとってのスケベはもっとディープなものかぁ」 「違う助平なのは海輝だ。お前が助平だから俺も影響を受けたが、断じて俺が助平なわけではない。海輝が俺に厭らしい事を沢山したから」  吐いた唾は呑めぬが如く、まさに後の祭り。

ともだちにシェアしよう!