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三十二話:『どうにかなれば良い』

 ディープキスとは舌同士のセックスだ。  逃げて追いかけ捕まえて。絡まり解ければまた手繰り寄せる。 「ふっぅっ、ン……う、んぅっ」  飲み込めず泡立ながら混ざり合う唾液を滴らせ、海輝の背中に指を食い込ませた。  全力疾走した後の様に息が続かない。  時折咳き込みながら何とか酸素を取り入れる。 「んっぅ」  唇が一度離れ、宥める様に頬を撫でられる。 「――大丈夫?」  僅かに息を弾ませ錦同様に頬を赤くした海輝が、心配そうに見下ろしてくる。  平気だと言いたい所だが、小さく「うん」と返すのが精いっぱいだった。  汗ばむ額を拭い、瞼の下を指でなぞる。  中々心地が良い。気遣う瞳に挑発的に舌を差し出すと、すぐさま貪り付いてくる。 「ぷはっ……、ん、ンんつ」  ぬちゅぬちゅと日頃決して耳にしない、粘り気のある音の合間で海輝が切れ切れに名前を呼ぶ。  名前を苦し気に呼ばれるたび、酷く切なく感じる。

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