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三十六話:『世界で一番幸せな男 』
天気予報では雨天だった筈だ。
防音施工された窓の向こうは、ざぁざぁと音を立てて雨が降ってるのかもしれない。
夜明け前だろう外を思い浮かべて、指先で目の前の肌をなぞると彼は笑いを含み震えた。
淡く照明に映し出される部屋は黄昏時の空に似ている。
ぼやけていて、蜜の様に濃厚で境界線が溶けてしまうような無防備な距離と空気。
そんな疲労感で定まらぬ意識を引き戻したのは慣れ親しんだ温もりだった。
赤らんだ眼の縁をなぞる指が、耳へ伸ばされる。
そのまま髪の毛を梳いて後頭部、項、背中へ降りる手の動きに眼を細める。
夢心地で背を撫でられていたら、ひそやかに笑う声が聞こえた。
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