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『艶を含んだ視線』
「混泳させるなら縄張り争いや食害を避けるためにも賢明な判断だ」
「そうなんだよ。で、結局は定番の魚で決まっちゃったよね。あの水槽オーダーする前に他にも沢山候補が有ったんだ。 水槽のサイズも有るし隠れ場所も有るだろう。だから何とかなると思って、全く知識の無い連中には『混泳は水槽に入れる順番を注意すれば大丈夫でーす。僕に任せてくださぁい!』と言い、自分の好きな魚を選んで業者にあとは投げれば良いと思ったんだけど、流石にそう甘くはなかったのだよ。幾ら好きでもこっちは素人だし、プロに任せた方が確実だからね。色とか雰囲気とかでリスト見て選んだんだけど、初期費用に維持費用、定期メンテナンス、デザイン的にもベストってお勧めされて万番一致でオーダーしたわけ」
「ベストな選択なら良いじゃないか」
明るいブルーの魚が群れて泳ぐ姿は時間を忘れて見入る程の優雅さがある。
オーダー水槽の中でも、万人受けする外れの無い選択だろう。
「比較的気性も穏やかで混泳に向いている。見た目も凄く綺麗だ。俺は良いと思う」
「――君が気に入ってくれたなら、正解だったんだな。水槽の中身に関しては色々思う所が有ったけど、なんかすっきりしたよ」
小さくあくびを噛み殺し
「錦君」
と甘く掠れた声に顔を上げると、艶を含んだ視線で微笑む。
限界が訪れたのかもしれない。
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