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『そのまま溺れ死にたくなる』

 海輝の瞳が潤み表情がトロリとしている。  淡い照明を顔の側面に受けて、瞳に不思議なグラデーションを作る。  見慣れているのに、やはり見惚れる程に美しかった。  無防備な表情に見惚れ、無意識に手を伸ばし頬を撫でると猫の様に頬擦りをする。 「また僕と泊まってくれる?」 「そんな質問するな」 溜息を交えて笑えば、海輝は照れを見せた。 「ふふ。分かり切った事でも聞きたくなるんだよ」 「お前となら何処へでも」 「ふへへ」  有難う、嬉しい、幸せと繰り返す彼の声に何だか泣きたくなる。  幸せなのにふっと喉元が詰まって、そのまま溺れ死にたくなる。 「海輝、有難う」 「僕の方こそ今日は付き合ってくれて有難うね。会いに来てくれて凄く嬉しかった。有難う」 「会いに来てくれたのは海輝だろう」 「それでも僕の居る所まで走り回って探してくれたじゃないか。嬉しかったよ。それから僕のこと大好きでいてくれて有難う」

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