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4話 トリプルエス(激レア廃課金)

 てっきり竜宮城の海鮮レストランで夕食を摂るのかと思いきや、到流は思わぬ提案をしてきた。 「初対面でこんなこと頼むのアレなんですけど、家まで送ってくれません? 俺今日、アシがなくて」 「え、飯は?」 「俺んちでどうぞ」 「ええ?」 「嫌でした?」 「嫌……って言うか、唐突だね。えーと、ネコちゃん……大好き……」  咄嗟に名前が出てこない。ネコちゃん大好きが文雄の中で印象深く残ってしまっている。到流はほんの少し眉を寄せたが、ちゃんと自己紹介していなかったことに気づいたのか、改めて名乗った。 「田川到流です。……で、乗せてってくれます?」 「でもいきなり飯は俺んちでと言われても……ご家族に迷惑が」  文雄の戸惑いが伝わったのか、到流は唇の端だけで笑った。 「大丈夫、うちは祖母がいるだけなんで。飯はいつもおかず残るくらいにはあるし、遠慮せず」  断るべきだったのかも知れないが、断り切れなかった。仕方なく文雄はミニバンの助手席に到流を乗せてエンジンをかけた。  これが中瀬文雄と田川到流の出会いであり、後に悔いることになるのだが、この時の文雄には知るすべがなかった。 「え、文雄さんネバドワやってんすか」  到流の家で夕食を食べた。無言もどうかと思って他愛のない話をしていたのだが、その場を持たせる為の会話で、二人とも同じソシャゲをしていることが発覚した。  通称ネバドワ、正式リリース名『ネバーランド・ドワーフ~あの世界の果てで運命のうさぎと出会う~』は、うさぎマニアに秘かなブームを巻き起こしているソーシャルゲームだ。広大なフィールド内で好みのうさぎを育成する、シンプルかつ奥の深いゲームである。廃課金者もかなりいるはずだ。 「うん、可愛いよな」 「完全同意」 「ネコちゃん大好き、じゃなくて、うさぎだったのか」 「……いえ」  到流は意味深に笑んで、スマホをテーブルに置いた。 「フレンド登録、してください」 「ああ、いいよー」 「えっと、……ミオさんですか?」 「──うん、まあ」 「あ、フミオの『ミオ』だ。可愛い」  到流は面白そうに笑んで、文雄のアバターをしげしげ見ている。名前に合わせて女の子の姿を取ったそれを見て、ネカマと思われたのかもしれない。  少し早まったかもしれない。顔も知らないフレンドならどうということはないが、実際に目の前でやり取りするのはなんとく気恥ずかしかった。 「おっ、SSS(トリプルエス)! いいの持ってるなあ」  到流の手持ちアイテム──と言っても物理的なものではない──を見せて貰ったら、びっくりするようなものが紛れていて文雄は思わず声を大にした。  ランクSSSはネバドワで一番の激レアで、勿論ガチャ出現率もかなり低い。きらきらと輝く白うさぎが天使のように微笑んでいて、非常に強力なキャラクターだ。うさぎ好きでなくても籠絡されそうな、可愛らしい容姿をしている。 「ガチャどんだけ引いた?」 「いや俺は……引き強いんで」 「マジかよ、うらやま」  それからしばらく一緒にゲームをしていたが、途中文雄の父から帰れコールが入り、SNSアプリLANE(レーン)のID交換をして田川家から引き上げることにした。

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