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第2話

おべっかばかり言う奴や、相手の顔色をうかがって自分を押し殺してしまうような奴は嫌いだ。 そこに自分の信念があるなら言えばいい。 俺が間違ったことを言ってるなら反論してくれていい。 生温いだけの関係が居心地良いなんて、俺は思わない。 そうやって、周りに自分の考えを押し付けたのが間違いだったようだ。 四賀は足元に転がっている汚れたサッカーボールを見つめて思った。 つい数分前、チームメイトから自分に投げつけられたものだ。 中学三年の夏、このチームでサッカーがやれる最後の季節。 どんな結果でも悔いのないように、四賀はチームが一つにまとまって試合にのぞめればと思った。 「大成は・・もう少し言葉を選ぶべきだよ」 後ろからゆっくり近づいてきた三角が言った。 「・・お前見に来てたのかよ」 四賀は振り向きながら三角を睨んだ。 「大会は見に行けなさそうだから、練習試合だけでもと思ってね。ボール、当たったところ大丈夫?」 三角はそっと四賀の額を触ろうとした。 バン! しかし四賀はその手を力強く払い除けた。 こいつに触られて慰めらるなんて、そんな惨めなことはない。 従兄弟だからと、いちいち兄貴面をしてくる。 歳は二つしか違わないし、背だって自分の方が高いのに・・ 「・・どうするの?大成。みんなにちゃんと謝まらないと。もうすぐ本番なんだから」 三角は叩かれた手をさすりながらため息混じりに聞いた。 「・・俺、辞めるわ。こんな部活」 四賀は下を向きながらボソリと呟いた。 「えっ?本気で言ってるの?三年間頑張ってきたのに?」 三角は眉間にシワを寄せた。 「そんな中途半端な気持ちで今までやってきたの?」 「中途半端じゃねーよ。俺は俺なりに一生懸命やったんだ!それがこのザマだよ!!誰も俺の話を聞かない!俺は悪いと思ったところを言っただけだ!直せばもっと良くなるはずなのに!」 四賀の声は怒りのあまりどんどん大きくなっていく。 「だから、その言い方が悪いんだよ。大成が正しいこと言ったとしても、言い方が悪ければ伝わらないでしょ。大成の言い方は人のプライドを傷つけるんだよ。傷つけられても素直に聞ける子なんて、大成くらいの年齢じゃまだまだ少ないと思うけど・・」 三角は諭すように話す。 しかしそれは四賀の怒りをさらに増長するものでしかない。 「うるせえ!歳上だからってわかったようなこと言うな!」 四賀は三角を睨みつけた。 「・・・」 二人しかいない夕暮れのグラウンドで、四賀と三角の影が二つ伸びていく。 「本当に、辞めるの?」 三角は四賀の瞳を見つめて聞いた。 「あぁ。俺がいない方がこのチームはもっと良いチームになれるって言われたんだ。だったら俺がここにいる意味はない」 四賀はそう言うと、足元に転がるサッカーボールを拾ってソッと撫でた。 三年間、頑張ってきた。 意見をぶつけ合って、より良いチームになればと思った。 でもそれは自分の独りよがりだったようだ。 みんな、心の中ではずっと俺の存在を疎んでいた。 ここ最近は最後の大会に向けて今まで以上に厳しく言ってきたが、そのせいもあってついに不満が爆発したのだ。 崩れるのはあっという間だった。 練習試合が終了したと同時に、チームメイトだと思っていたメンバーは皆口々に俺への不満や怒りをぶつけてきた。 そこに、同じ目標に向けてやってきたチームとしての感情はなかった。 自分のやり方が間違っていた。 ただそれだけだ。 でも、俺はこれ以外のやり方がわからない。 お互い、悪いところを指摘し合わないで上手くなるのか? 生温いお遊びでやってるわけじゃないんだろ? でも・・ そのやり方ではチームはまとまらないらしい。 俺にはチームプレイは向いてないのかもな。 いや。 そもそも、俺は人とうまく付き合っていける性格ではない。 いつもキツイだとか、冷たいだとか言われては、どこか距離をおかれてしまう。 俺はただ、お互い言いたい事を言い合えるような、ありのままの姿でいられる付き合いができればいいと思っているだけなのに・・ 四賀はサッカーボールをしまうと、帰りの準備を始めた。 三角はその様子をそばでジッと見ている。 「俺も・・」 四賀はドリンクを飲みながらボソリと言った。 「俺もお前みたいになれれば、うまくやれんのかな・・」 「大成・・」 三角は四賀のどこか寂しそうな背中を見つめた。 そうだ。 そうしよう。 高校に入ったら俺は樹みたいな人間になって、もう一度友人関係をやり直すんだ。 今度は失敗しないように。 誰にでも笑いかけ、相手のことを何があっても否定しないような人間になる。 大丈夫、樹の真似をすればいい。 ずっと見てきた樹のことは、誰よりも俺がわかっているのだから・・

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