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第3話

宝は先日一緒に帰った際に四賀から聞いた、『自分を偽っている理由』を思い出していた。 どうやらあのもともとのキツい性格で、中学生の時部活仲間と喧嘩になり引退前に辞めることになってしまったらしい。 そしてそれを反省し、優しくて人望もある従兄弟の三角先輩の真似をして高校生活をやり直すことにしたそうだ。 (なーんだ!あいつも結構ダメな奴なんだなぁー) 電車に揺られながら宝は思わずクスクスと笑う。 「何か楽しいことでもあったの?」 横に座っている完路が覗き込むように聞いてきた。 「えっ!いや!別に!」 宝は慌てて手を振った。 四賀が自分を偽っていることは完路にも秘密だ。 部活の朝練がない日はいつも完路と一緒に登校している。 そもそもこの地域は電車の本数が少ない。 朝の七時台であっても二本しか電車は来ないのだ。 なのでほとんどの者は自転車で通える市内の高校を選ぶ。 しかし二人とも隣の市の高校を選んだものだから、乗る電車は選ばずとも一緒になってしまうのだ。 「・・宝、この間さ四賀君と帰ってた?」 完路が車窓を流れる景色を見ながら聞いた。 「えっ?!」 宝は驚いて声を上げる。 「完ちゃんなんで知ってるの?!」 「図書室の前、通ったでしょ。宝が時々使う外の抜け道。勉強してたら宝の声聞こえたから」 「あぁ〜・・うん、そう・・」 (完ちゃんあの時本当に図書室にいたのかー!!) そもそもあの日、あそこの道を通ったのは完路がまだ図書室にいるか見に行くためだった。 四賀のことで色々あってそのまま忘れてしまっていたけど・・ 「ずいぶん仲良くなったみたいだね。安心したよ。クールなふりももうやめるの?」 完路は安心したと言う割には、表情は特に変えることなく淡々と言った。 「いや!やめないよ!四賀にはその〜・・うっかりドジしてバレちゃったけど、クールなふりしてるのは秘密にしてくれるって言うし」 宝は四賀自身のことは言わないようにしながら説明した。 「そう。秘密にしてくれるなら・・よかったね」 そう言って完路は少しだけ微笑んだ。 宝は完路のその顔を見て、やっぱり本物のクールな人間はかっこいいなぁなどと思った。 完路とは、小学四年生からの付き合いだ。 宝の家の近くで、一人暮らしをしているちずちゃんというおばあちゃん。 宝の祖母の茶飲み友達でもある。 そのちずちゃんのもとに、東京で暮らしていた娘と孫が帰ってくると聞いたのは十歳の時。 ちずちゃんに自分と同じ歳の孫がいるのは知っていたが、一回しか会ったことがなくこの町にきたことは一度もないと言っていた。 そんな子が急にこんな田舎の町で暮らせるのだろうか? 宝は心配になった。 完路と完路の母親が引っ越してくる日、宝はちずちゃんと一緒に出迎えることにした。 そしてその日が、宝と完路の出会いの日になったのだ。 あの日から、完路はずっと宝の憧れの存在である。 「どうかした?宝」 じっと宝に見つめられていた完路が不思議そうに聞いた。 「あっ、いや!やっぱり完ちゃんはかっこいいなぁと思ってさ。俺がどんなに完ちゃんの真似したって、追いつけることなんてないんだろうなぁ」 宝は照れ笑いをして鼻を擦りながら言う。 「・・俺は、どんな宝でもいいと思うけどね」 完路は優しく笑いながら言った。 普段ほとんど見せない笑顔だが、たまにふと見せるその威力は絶大だ。 (このたまにしか見せないからこその、希少価値!ギャップみたいなものがまたかっこいいんだよなぁ) 「なぁ、完ちゃんさ、高校入って告白とかされた?」 宝はふと思ったことを聞いた。 「・・なんで?」 完路は真顔で聞く。 「えっ、だって完ちゃんがモテないわけないし!!中学の時だってさー完ちゃん人気すごかったじゃん!!バレンタインとか、女子達みんなこっそり完ちゃんの机にチョコ突っ込んでたじゃん!俺なんて一つももらえなかったのにさー」 宝は昨年までの悲しいバレンタインを思い出しながら言った。 「・・あれは、俺自身がモテてたわけじゃないから」 完路は俯きながら言う。 その姿を見て宝は『しまった』と思った。 完路自身が触れたくない話を、自らさせてしまった。 「いやいや!完ちゃん!何言ってんの!完ちゃん自身がかっこいいの!俺は完ちゃんがどこの誰でも、例え桃からから生まれた完ちゃんでも絶対好きになるもん!」 宝は完路の目をまっすぐ見つめ熱弁した。 「ふっ・・何それ。告白?」 完路は小さく吹き出して笑う。 「えっ!ち、違うからー!俺は完ちゃん自身のことが好きなの!わかってよ!!」 宝は思わず赤くなって言った。 「わかってるよ、ありがとう」 完路は宝の頭をポンポンと撫でながら微笑んだ。 完路は憧れの存在であり、大好きな親友だ。 少なくとも宝はそう思っている。 完路も同じことを思ってくれていたらいいなと、宝は思った。

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