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第4話 ①

「和泉!今日も何か食べて帰らない?」 部活中、靴紐を直している宝に四賀が聞いてきた。 「別に・・いいけど」 宝はポツリと答える。 近くに先輩達がいるので、二人とも絶賛自分を偽り中だ。 「なんだ!1年もう親しくなったのか?!」 部長の福永が嬉しそうに言ってきた。 「和泉は無口でクールだから仲良くなるの難しいと思ったけど、四賀は誰とでも打ち解けるのがうまいんだな!やっぱり爽やかなやつは違うなぁ」 「いえ、そんな」 四賀がニコリとして言う。 「二人だけの1年生なんだ、これからも仲良くしろよ!」 そう言うと福永は自分の練習メニューをするために戻っていった。 「爽やかだって。本当は腹黒のくせに」 宝がニヤリとしながら言う。 「無口でクールだって。本当は単純バカなくせに」 四賀も意地悪そうな顔で言う。 「なんだと・・」 宝は四賀に食ってかかろうとしたが、部活中のことを思い出しすぐさま切り替えた。 「・・コホン。四賀、じゃぁ部活終わったら駅前のラーメン屋行こう」 「そうだね、和泉!」 四賀もわざとらしいくらいの爽やかな笑顔で言った。 ズズズー 宝は豪快に醤油ラーメンをすする。 「お前、もう少し綺麗に食べろよなぁ。子どもかよ」 その様子を見ていた四賀が呆れた顔で言った。 「子どもだよ。まだ16じゃん」 宝はもぐもぐと食べながら答えた。 「まぁ、周りから一目置かれたくてクールなふりをしてみるって発想自体、かなりお子ちゃまだもんな」 四賀はからかうように言って、自身も目の前のラーメンをすすった。 「なんだと?!人間誰だって一度はかっこいいーとか、すごーいとか言われたいじゃん!」 宝は割り箸を力強く握って言った。 「せっかく入学してからクールなふりうまくいってたのに、なんだってお前みたいな腹黒にバレちゃうかなぁ」 「・・・悪いけど俺、お前がクールなやつじゃないこと、前から知ってたからな?」 四賀はスープを飲みながらしれっと驚きの発言をする。 「ええっ!!!うそ!?」 宝は驚いて箸でつまんでいた卵をぽろっとラーメンの中に落とした。 「本当。お前が俺を勧誘しにクラスまできたことあっただろ?あの時、お前が俺のクラス出て行った後、お前を追いかけたんだよ。入部するって言ったけど、部活の細かい説明聞いてなかったと思ってさ。そしたら、お前友達に向かってすっげー騒いでんだもん。何だこいつ?って思ったよね」 「あ、あの時・・か」 宝は四賀の勧誘に成功してしまった日のことを思い出した。 確かあの時、廊下で会った完路におもわず泣きついたのだ。 (まさかあれを見られていたとは・・ 恥ずかしすぎる・・) 「まぁ、あの和泉が面白かったから陸上部もやる気になったっていうか?本当はイメージ悪くしないために少しだけ活動して、ちょっとしたら部活は辞めようと思ってたんだよね。うっかりリレーとか団体競技に出ろとか言われたら嫌だったし」 「え・・そうだったのかよ?」 「俺、部活にいい思い出ないからな。でも今のところ個人競技で好きにやらせてもらってるし、お前もいるし楽しいよ」 四賀はそう言ってニコリと笑った。 なんだ、こいつ素でもこんなふうに笑うのか。 宝は不意打ちで出た四賀の自然な笑顔を見つめた。 四賀といるのは正直楽しい。 最初はあんなに敵対心を持っていたのに、今ではむしろ同じ本性を偽ってる人間として仲間意識さえある。 それに・・ 「和泉、走り方きれいだよな。この間良いタイム出てたじゃん。また一緒に走ろうぜ」 「あぁ・・うん!今度は負けないかんな!」 四賀は宝の走りを認めてくれている。 ただ小猿のようだと、からかってきた奴らとは違う。 四賀は思った事はハッキリ言う。 悪いことも良いことも。 それがなんだか気持ち良く感じるのだ。 四賀になら何を言われても、悔しいと言うより素直に受け取れる。 そしてこっちも思った事はハッキリ言い返せる。 四賀とのじゃれ合うような口喧嘩も、宝にはとても楽しい時間になっていた。 ピコン 着信音と共に宝のスマートフォンの画面が光る。 見ると完路からメッセージが入っていた。 「完ちゃんからだ。そういえば最近完ちゃんと帰れてないな・・」 宝は画面を見ながら独り言を言った。 完路から 『もう家に着いてる?』 という内容のメッセージが届いている。 もしかしたら部活帰りの宝を待っていてくれたのかもしれない。 四賀と仲良くなるまでは、放課後図書室に残って勉強している完路と帰ることが多かった。 電車の本数も限られているので、学校を出る時間がバラバラでも駅で電車を待っている間にだいたい鉢合わせる。 しかし最近は四賀とご飯を食べて帰ることが多いので、普段乗る電車より一時間は遅くなっていた。 「かんちゃんって?」 ほぼラーメンを食べ終わりそうな四賀が聞いてきた。 「2組の瀬野 完路だよ。知らない?小学校からの友達なんだけどさ、クールでかっこよくて俺のなりたい人物像そのものって感じのやつなんだ!」 「はーん。つまりお前はその瀬野ってやつの真似してるわけね」 四賀は納得したと言わんばかりに首をうんうんと振って頷いた。 「まぁ・・なかなか完ちゃんのようにはなれないけどさ・・」 宝は残りのスープを飲み込みながら言った。 「・・別に、お前はお前で良いと思うけどねぇ。俺はクールぶってる時より、今のお前の方が好きだけどな」 四賀はフッと笑いながら宝を見た。 その言葉に宝は思わず赤面した。 「はっ!?えっ!」 思ってもいなかった言葉に戸惑ってしまい言葉が出てこない。 「あっ!うわ!!」 宝は思わず手に持っていた空の丼を落としそうになって慌ててキャッチした。 「はは!何それ!本当おもしれーな、和泉!」 四賀はケラケラと楽しそうに笑う。 宝はそんな四賀の笑顔を顔を真っ赤にしながら見つめた。

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