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第12話 ②

高校から地元の町までの道のりは遠い。 去年はひたすらスマホのゲームをしたり電子書籍で漫画を読んでいた。 しかし今年はそう言うわけにもいかない。時間が一秒でもほしい受験生だ。 なるべく電車での移動時間は暗記物の勉強をするようにしている。 それでもトンネルが続き車内が少し暗くなると、あっという間に睡魔が襲ってきてしまう。 昔なら起こしてくれる相手がいた。でももう今はいない。 なんとか眠ってしまわないように、宝は真っ暗なトンネルの車窓を目で追った。 目の前の窓ガラスには一人ぽつんと座る自分の姿が写っている。 この二年で身長が少し伸びた。 相変わらず高い方ではないけれど、もう小猿なんて言われることはないだろう。 つまらなそうな顔で座っている自分を見ていたら、またも眠気が襲ってくる。 フッと意識が飛びそうになって、ガクンと肩が横に揺れた。 受け止めてくれる隣の肩がなくて、宝は膝で慌てて身体を支える。 クスクス・・ 少し離れたところに座っている女子高生達の笑い声が聞こえて、宝は顔を真っ赤にして下を向いた。 (寂しい・・) 一瞬脳裏をよぎったその思いを打ち消すように、宝は頬を両手でパチンと叩き眠気を払った。 ーーー 「あれ?和泉じゃん?」 「へ?」 気怠い気持ちで予備校に入った瞬間声をかけられ、宝は気の抜けた声を出した。 「久しぶり〜!和泉もここの予備校だったんだ!」 「あー・・平野?」 「うわ、何そのつまんない反応・・」 そう言って平野は不満げな表情を見せる。 彼女は中学時代の同級生だ。 明るく誰にでも話しかけてくる女子生徒で、宝のことを小猿と揶揄ってくる一人でもあった。 「和泉、どこの高校行ってるんだっけ?」 「・・N校だけど」 「N校!?ってことはN市まで行ってんの?なんで?」 「なんだっていいだろ・・行きたい高校だったんだよ」 「ふーん・・」 平野はまじまじと宝を見つめながら頷く。 「なんか・・和泉変わったねぇ」 「え?」 「なんか、落ち着いた?昔はもっとうるさい感じだったのに」 「うるさいってなんだよ!」 思ってもいなかったことを言われて、宝は照れ隠しで大きな声で反応する。 「えぇ〜、中学の頃はほんとうるさいお猿さんって感じだったじゃん!小さかったしさ!でも背伸びたしなんか雰囲気変わった気がする!」 「そりゃ、中学卒業してもくすぐ3年だぞ。俺ら今年18歳だろ!大人にもなるって」 「うん、まぁねぇ〜、早いよね〜」 平野はケラケラと笑っていったが何かを思い出したように「あっ!」と声を出した。 「ねぇ!そういえばさ!瀬野君、東京に戻っちゃったって本当!?」 「え・・」 「和泉仲良かったじゃん!なんで戻っちゃったか聞いてる?」 「・・・」 宝は無言のまま視線を横にずらす。 「・・和泉も知らないの?」 「・・知らない。悪いけど、俺そろそろ行くわ」 そう言うと宝は教室の方へ向かって歩き出した。 「えっ!ちょっと!」 平野の驚く声が聞こえたが、宝は構わず教室の中へと入っていった。 この話題をふられると、自分の存在が情けなく感じる。 だからずっと、誰かと完路の話をすることは避けている。 それがたとえ逃げだとしても・・ 二年前、完路から話しかけてくれるようになるまで待とうとしたのが間違いだったのだろうか。 もっと自分から歩み寄っていれば・・ 何も知らないまま、親友が居なくなってしまうなんてことは避けられたのだろうか。 宝は右から左に流れていく先生の声を聞きながら、教室の窓から見える色褪せたような自分の町を見つめた。

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