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第13話

四賀の部屋は広くて整頓されている。 棚の上には四賀の好きなものが並べられ、窓際には青いシーツのかかったベッドがある。 宝が初めて四賀の家を訪れたのは一年生の夏休みだった。最初は大きな家に驚いたが今ではもうすっかり慣れたものだ。どこにトイレやお風呂があるかもわかっている。 宝の住む町と四賀の住む町は電車で一時間半ほどかかる距離で、大きな休みの間は泊まりがけで遊びに来るのがお決まりになっていた。 「・・宝」 「っ・・ぅん」 後ろから四賀の両腕で抱きしめられて宝は小さく声を漏らした。 耳元をくすぐる四賀の吐息に肩が震え、宝は目をキツく閉じる。 それから身体の中心に四賀の熱を感じ、宝も自身の熱を吐き出した。 「ほら、お茶」 新しいシャツに着替えた四賀は、台所から持ってきたグラスに入ったお茶を宝に差し出した。 「うん、ありがと」 宝はベッドにこぼさないように床に座り直して口をつける。 初めてこの部屋で身体を重ねたのは一年生の冬休みだった。 夏の間から時々ここへ来ては些細な触り合いはしてきたが、最後まで繋がるには時間を有した。 四賀はセックスの知識はあっても最後までやった経験はない。昔少し付き合った彼女とは途中までで終わってしまった。 さらに今回は相手が男となれば準備も心構えも必要になる。 宝はてっきり四賀にはまだまだその気はないのだと思っていた。 自分がその気にさせられるほどの魅力を持っている自信がなかったからだ。 しかし意外にも四賀は部屋で二人きりになるなり、積極的に宝に触れてきた。 戸惑い半分と嬉しさ半分で宝もそれに応えた。 夏からじっくり時間をかけて身体を慣らしていき、冬休みに入ってすぐ二人は初めて結ばれた。 ずっと寸止め状態が続いていた中でのセックスは、初めてとは思えないくらい気持ちよかった。 四賀とセックスできた・・ そのことに安心したと同時に、胸の奥がチクリと痛む。 完路と練習していたこと、そして最後までセックスしてしまったことは四賀には言っていない。 自分も勉強してきたので知識があるということにしている。 さすがの宝もこの時にはもうわかっていた。 あの行為は、普通の友人同士でするものではなかった。 そもそも恋人がいるにも関わらず、他の人間と身体を触り合ってはいけなかった。それが例え『親友』だったとしても・・ 「夏休み中にさ、オープンキャンパス行こうと思って」 四賀は寛いだ様子でスマホを見ながら言った。 「オープンキャンパスって、じゃぁ京都まで行くの?」 宝は脱いでいたTシャツに袖を通しながら聞く。 「あぁ。樹が泊めてくれるっていうし」 「ふーん・・」 久しぶりに四賀の口から三角の名前を聞き、宝は小さく胸がざわつく。 三角は京都の大学に進学し、向こうで一人暮らしをしている。 付き合い始めた頃のモヤモヤは、三角が遠くに行ったことで少しずつ解消されていった。 三角は向こうでの生活が忙しいらしく、お正月くらいしかこちらに戻ってくることはないらしい。 しかしそれでも、やっぱり三角の存在は大きい。 現に四賀の志望校は三角と同じ大学だ。 「お前も本当そろそろ決めろよ?関西の大学いいじゃん。同じ大学には入れなくても、近けりゃすぐ会えるし」 「・・そうだけど」 宝は視線を下に向けたまま答える。 「・・・」 四賀はじっと宝を見つめていたが、小さくため息をついて言った。 「ハァ・・まぁ、お前の好きにしろよ」 「・・うん」 宝が小さく頷くと、四賀は宝の横に移動し腰を下ろした。 「何?」 四賀に視線を向ける。 「・・別に・・」 「・・?」 四賀が何も言わないので宝も黙ったまま四賀を見つめた。 そして四賀と視線が重なった瞬間、ふわりと優しく唇が触れる。 啄むような四賀からのキスに宝は目を瞑って応えた。 それからそっと唇を離すと四賀は両手で宝のほっぺたをむぎゅとつまむ。 「いた!痛いよ!四賀!」 宝が涙目になって言うと、四賀は唇の端を上げて笑った。 「はは!変な顔・・」 「なんだよぉ・・」 四賀の手が頬から離れると宝はつままれていたところを手でさすった。 最近、四賀の雰囲気が変わった。 普段通りにしているように見えるけど、どこか距離を感じる。 いつまでも将来のことを決めないことに呆れられているのかもしれない。 どこの大学に行くか。 そもそも何のために大学に行くのか。 今まで自分で明確な目標を持って何かを決めたことがあっただろうか。 今の高校を選択したのは、完路がいたからだった。 宝が何かを決める時、いつだって隣には完路がいた。 そんな自分が・・これからはどうやって決めていけばいいのだろう。 俺のしたいことは・・・ ・・・ その瞬間 ふと胸によぎったのは『会いたい』という気持ちだった。

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