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第15話 ③

ーーー 「そう言えばさ、大成」 大学までのバスに乗りながら、隣に座る三角が思い出したかのように四賀に話しかけてきた。 「彼女さんにはこっちの大学受けるって言ってるの?」 「・・えっ?」 窓の外の景色を見ていた四賀は眉をピクリとさせて三角に視線を向ける。 「だってもしかしたら遠距離恋愛になっちゃうかもしれないでしょ?ちゃんと話してるの?」 「・・・」 四賀はムスッとした表情のまま再び視線を窓の外に向けると、ボソリと口を開いた。 「別れた」 「・・えっ?」 三角が目を丸くして四賀を見つめる。それから静かな声で聞き返した。 「そうなの?」 「あぁ、だから別に・・心置きなくこっちの大学受けられるんだよ」 「・・そうなんだ」 三角はそう言うと自分の手元を見つめるように俯いた。 「・・なんだよ?」 珍しく小言を何も言ってこないので、四賀は不審に思い三角を見つめる。 「なんか思ってることあるなら言えよ?」 「・・うーん、ちょっと意外だなぁって・・」 「意外?」 「うん。大成が、遠距離になるくらいで別れちゃうようなタイプだったなんて!」 三角はそう言うと少し意地悪そうにニコリと笑った。 「なっ!ちげーよ!!」 四賀はカッとなって思わず大声を出す。すると三角はすぐさまシーっと指を立てて車内を見回した。 「大成。バスの中だよ」 四賀はチッと小さく舌打ちをすると、再び窓の外に目を向ける。 「・・別に、遠距離になるから別れたわけじゃない・・」 四賀は三角に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でボソリと言った。 「えっ?なに?」 三角はやはり聞き取れず、目をぱちぱちとさせて四賀を見つめる。 「・・なんでもねぇ。もうこの話はいいだろ」 四賀はそう言うとフイっと完全に顔を車窓の方へと向けた。 三角はそんな四賀の様子を見て、もう話を続ける気はなさそうだと判断したのか手に持っていた自身のスマートフォンに目を向ける。 それからツイツイと指先で画面をスクロールしながらこれからの天気予報に目を通した。 「うわぁ。今日の最高気温37度だって!暑いわけだねぇ」 三角は四賀との重たい空気を変えるためわざとらしく明るい声で言った。 「樹、お前倒れるなよ?」 四賀は窓の景色を見つめたまま無愛想に返す。 「アハハ、わかってるよ。心配性だなぁ、大成は」 三角は四賀から返事があったことに内心ホッとして、再び天気予報の画面を見つめた。 「今日はこの後もずっと1日晴れかなぁ〜と・・あっ!」 三角が小さな驚きの声をあげたので四賀はチラリと三角の方を見る。 「どうしたんだよ?」 「あっ、いや。ごめん、勘違い!これからゲリラ豪雨の予報があったんだけど、こっちじゃなかった。東京の方みたい」 「・・えっ?」 「関東は大気が不安定でゲリラ豪雨があるかもって。最近本当多いよねぇ。京都でも結構降るよ」 三角はそう言いながらスマホの天気予報の画面を四賀へ向けた。 画面には全国のこれからの天気予報一覧が表示されている。 四賀はその中の東京の天気をじっと見つめた。 「・・ゲリラ豪雨・・」 「うん?どうかした?大成」 三角は四賀の方へ向けていたスマートフォンを自身の方へ向け直し、なにか変なものでも写っているのかと画面を見つめる。 「・・いや、別に」 四賀はそう言うと、バスの外へと目を向けた。 京都と東京。 新幹線で数時間の距離だとしても、やはり遠い。 こちらはこんなに晴れているのに、向こうではこれから大雨が降る。 スマートフォンの画面越しにそれを知ることが出来ても、そこにいなければ濡れる相手に傘を差し出すことはできない。 「・・頑張れよ、宝」 四賀はボソリとそう言うと、バスの外に見えるカラリと晴れた京都の空を見上げた。

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