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★第三の選択★

 俺が選ぶ?  プリンスか、先生か――?  俺は息を飲んでその場に立ち尽くした。  頭の中をくるくると記憶が駆けめぐる。最初に思い浮かんだのは入学式で遠くにみたプリンスと、祝辞を読みあげる声だった。次に思い浮かんだのはアンブローズ先生の厳しいまなざしだったけれど、今思えば一年生のときから先生は俺を見守ってくれていたのだ。温室の一角で、三人で朝食をとった日々の幸福感を俺はおもった。そしてあの、ラレデンシを生成するためにふたりが術式をかけてくれたとき……。 「センパイ、先生――俺は……」  俺はたまらず首を振った。 「俺には選べません」  そっと目をあげると、アンブローズ先生とプリンスが固まっているのがみえた。 「俺は先生も、センパイも……大好きです。こんな欲張りなことを考えちゃいけないのはわかってます。でも今日どちらかを選んだら……それで終わりになってしまうんですか? 俺にはあれかこれかという選択しかないんでしょうか」 「あれかこれか」  プリンスが繰り返した。俺はつぶやいた。 「あれもこれもというのは――ごめんなさい。馬鹿なことをいいました」  アンブローズ先生の喉からヒュっと奇妙な音が鳴った。ふたりが顔をみあわせる。 「これは、アンブローズ先生」 「リチャード王子……いや」 「僕はアッシュの望みを叶えたい」 「それは私も同じだ」 「つまり……」 「そういうことか」  ふたりがいったい何を話しているのかわからないまま目をぱちくりさせた俺に、プリンスがいった。 「アッシュ。ひとりを選べないのなら両方を選べばいい」  そんな。 「でも……」 「アッシュ」  今度は口をぱくぱくするだけの俺に、アンブローズ先生が落ちついた口調でいった。 「を選ぶのなら、塔に来なさい。今夜だ。塔の最上階の、生成魔法を行った部屋に」  卒業生のパーティのあいだ、俺は考え続けていた。ふたりのどちらかを選べなかった結果がこうなるなんて、思ってもみなかったからだ。でもやっぱり、どれだけ考えても、ふたりのうちひとりを選ぶなんてことはできなかった。どちらも大切な人で、どちらも俺は好き……で……。  パーティが終わった時、俺の心はきまっていた。  塔をのぼる階段は長かったけれど、もう迷いはなかった。扉の前に立つと向こう側から開いて、俺は目をみひらく。ラレデンシを生成したあの日とちがって、すべての窓のカーテンが最初から開け放たれ、透明なドームと十八面の窓の向こうには星が散りばめられた夜が広がっている。今回は床に魔法陣は描かれていなかった。そのかわり、魔法陣と同じくらい大きな、夜の色をした丸いベッドが中央に置かれていた。ふたつの人影が立ち上がり、俺の方へ近づいてくる。 「先生、センパイ。俺は……選びました」  アンブローズ先生が無言でうなずき、プリンスは俺の手をとった。 「おいで、アッシュ」  ベッドは俺が腰をおろしたとたん、ふわっと沈んだ。俺の前にかがんだプリンスが制服のボタンを外し、アンブローズ先生が袖を抜きとる。俺はされるがままになっていた。ベルトを抜かれ、靴を脱がされ、ズボンを抜き取られる。  やがて星空のしたで、夜の色のベッドの上に俺は素裸になって横たわっていた。プリンスとアンブローズ先生が静かに服を脱いでいく。ふたりの股間でそそり立つものをみて、俺の喉はゴクリと鳴った。俺の足もとにかがんだプリンスの舌がくるぶしに吸いつく。アンブローズ先生は俺の頭の方に座って、指で耳の裏を撫で、胸の尖りをつまんだ。 「んっ……」 「アッシュが欲張りでよかった」股のあたりでプリンスのささやき声が響いた。 「これから僕とアンブローズ先生、ふたりできみを奪うよ。いい?」 「はい……あっ」  両膝を広げられ、プリンスの唇が俺の股間を蠢く。前も……同じようなことがあったけど、でもあれは魔法に必要なことだった。今はちがう。これは愛の行為なのだ。 「あっ、んっ、あんっ」  プリンスの舌が動き出したとたん勝手に声が出てしまう。小さな茶色の小瓶が宙に浮かび、斜めになって俺の腹の上にとろりと蜜の溜まりをつくった。アンブローズ先生の長い髪が俺の顔に垂れかかる。先生の唇が重なって、快楽に喘ぐ俺の声を飲みこんだ。  濃厚なキスのせいか、体に垂れる蜜の甘い匂いのせいか、俺の頭はぼうっとしはじめていた。いつのまにか俺はアンブローズ先生の膝に抱えられて、お尻の穴に指を受け入れている。プリンスの唇が俺の先っぽを咥えてちゅうっと吸った。 「はっ、んっ、ああっ、」  イッた瞬間にお尻の中を深くまさぐられて、頭の芯が真っ白になってしまう。プリンスは俺が吐き出したものをきれいに飲みこんで、ふっと笑顔を浮かべた。 「アッシュ、可愛い……可愛いよ……」  肩で息をしていると、腰をぐいっと持ち上げられる。あっと思った時にはアンブローズ先生の熱くて堅い楔が俺の中に入っていた。 「ああっ、おっきい……」 「アッシュ、ほら……こっちも」  なかば閉じていた目をあけるとプリンスの顔が目の前にある。口の中に舌をねじこまれるようなキスを俺は夢中で返したけれど、気づいたときにはちがうものをしゃぶっていた。プリンスのそれも堅くて濡れていて、舐めるとうっすらと甘い味がした。でもうまくしゃぶっていられたのはほんのすこしだけ。  下から激しく突き上げられた瞬間、気が遠くなりそうなほどの甘い芯につらぬかれて、俺は喉をそらしながら叫んでいた。 「あああああっ――」  体の中にあったものがずるっと抜けて、俺は柔らかい寝台にころりと横たわる。あんなに気持ちよかったのにまだ股間は勃っていて、そればかりか指先も肩も体のあちこちがもっと何かを欲しがるように疼く。 「アッシュ――」  背中にプリンスの声を感じた。腰をひかれ、横になったままぐっと抱き寄せられて、俺の中にプリンスが入ってくるのがわかった。さっきアンブローズ先生にドロドロにされたところにプリンスの……すこしちがう形のが入って、えぐるように突いてくる。 「はっ、んっ」 「ああ、すごい、アッシュ、締まるよ……いい――」  体の中を行ったり来たりする快感をどうしたらいいのかわからないまま、俺はやみくもに腕をのばし、触れるものを掴んだ。誰かの唇が重なって――匂いからアンブローズ先生だとわかった。優しいキスが離れていくと、今度は大きな手が俺のあそこを覆い、こすりはじめる。腰はプリンスの腕にがっしり抱きしめられ、お尻の中はプリンスのものでいっぱいなのに、前からも弄られて、俺はどうしたらいいのかわからない。 「ああっ、センパイ、センセイ――ふたりとも、大好き――あ――」  また大きな快感の波が押し寄せてきて、俺は流されるままに意識を手放した。    *  それからどうなったかというと……。  俺はプリンスの「恋人」でアンブローズ先生の「愛弟子」になった。  魔法大学の学生寮はプリンスの部屋の隣で、在学中はアンブローズ先生の研究室に通った。大学を卒業したあとは魔法省に就職し、まもなくプリンスと婚約した。  そのころプリンスはお城で政務の一部を担っていたが、俺の卒業と同時にアンブローズ先生を魔法大学から呼び寄せ、相談役に任命した。先生はお城の中に自分の住まいと研究室を持てることになった。俺はプリンスの婚約者としてお城に住み、魔法省へ通った。  そのころ王国は山の向こうの国との国交で難しい時期を迎えていた。原因は魔王が作った地下宮殿――今はただのダンジョンになったが、そこに残された財宝にある。地下宮殿の一部は山の向こうのダンジョンに通じていた。間の悪いことに、ダンジョンから知らずにこちら側へ入りこんだ冒険者が財宝を発見して持ち帰ろうとして、見回りの魔法使いに出くわしたのだ。これをきっかけに起きた小競り合いがうまくおさまらず、やがてあわや戦争になるか……という事態になったのである。  王様は戦争なんかしたくなかったし、もともと山の向こうの国とは冒険者ギルドをはじめとした組織を通じて交流を進めていたところだった。問題をおさめるため、プリンスは王の名代として、アンブローズ先生は魔王の宮殿と古代の魔法に最も詳しい者として、俺はギルドカードを持つ唯一の魔法使いとして、いろいろな交渉事に加わった。三つの頭を持つイヌも、護衛その他で活躍した。  その後もいろいろあったが、最終的にたくさんの人の努力で戦争の危機はまぬがれた。予定より一年以上遅れて俺とプリンスの結婚式が行われ、まもなく王様が退位して、プリンスはリチャード王となった。  王配になった俺は魔法省を退職した。アンブローズ先生はリチャード王の右腕となり、熱心に国家の運営に取り組んでいる。一方俺はお城の中にあるアンブローズ先生の研究室を借りて趣味の魔法研究をはじめ、すぐに夢中になってしまった。晩餐の時間を忘れることもしばしばだ。 「アッシュ。姿が見えないと思ったら、やっぱりここにいた」 「あ……」  研究室の扉ががちゃりと開く。リチャードとアンブローズ先生の姿をみて、俺はハッとして時計を探す。机の上は解読中の魔法陣と文献とメモ用紙で埋まっている。 「もうこんな時間?」 「遺構の魔法陣か」  アンブローズ先生が俺のうしろから机をのぞきこむ。 「方向性は悪くないようだな。しかし一日の仕事としては十分だろう」 「その通りだね、アッシュ」  リチャードがアンブローズ先生の横に立ち、俺の髪を撫でる。 「今日の晩餐はアンブローズ先生も一緒だ」  そう聞いたとたんに体の芯が火照るような気がして、俺は身じろいだ。リチャードはくすりと笑って耳のうしろに指をすべらせる。 「待ちきれない?」 「センパイ……!」 「アッシュにセンパイっていわれると、いまだに興奮するよ」 「意地悪いわないでください……!」  うなじのあたりでそうささやかれて、俺は思わずうつむいてしまう。そのとたん横から伸びてきた長い指に胸元をさぐられ、ぴくっと反応してしまった。 「先生、センパイ、これから晩餐……」 「僕は先にアッシュを味見したい」耳の裏をリチャードの声と舌がなぞった。 「今日はとても忙しくてね……アンブローズ先生もそうだろう?」  返事はきこえず、そのかわり服の中、肌の上をゆるゆると撫でる感触がある。 「あっ……! 先生、そこっ……」 「綺麗だよ、アッシュ……」  椅子に座ったまま動けない俺にリチャードがキスをする。口の中でくちゅくちゅと舌をこねられると俺の頭の奥はしびれたみたいにぼうっとしはじめる。口だけじゃない、下からも濡れた音が響いて……。 「アッシュ、きみは幸せか?」  まともに答えることなんてできるわけがない。 「あっ、ああんっ、うんっ」  首をかくんと振ると、ふたりはやっと解放してくれる。このあとも長い夜があるのだけど……。

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