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【7】スローライフへの伏線。②
これは国王陛下に貴族が忠誠を誓っているのを披露するという名目で開かれる剣術戦だ。王族の子息は10歳から強制参加だ。もともと貴族間では魔術の方が普及しているため、剣技の振興のために催される。同時に騎士選抜試験の一次試験でもある。だから本気の剣士も多い。そして前世で俺は、初出場で初優勝を果たしたのだ……。大人も大勢いたのに。優勝者には名誉騎士の称号が授与される。この時優勝したせいで、国民にも俺の天才っぷりが広まったという黒歴史(?)がある。観客には国民も多いのだ。俺は剣技も超一流だったのだ……昔はそれが誇らしかったわけだが、今は違う。最大限努力して負けなければ……! 初戦敗退! ファイト!
俺はこの日のために建設されたコロシアムに立った。
初戦の相手は誰だったか……記憶があんまり無い。そう思っていた時、黒衣の青年が正面に立った。……! ユーリスだ! すでに宰相補佐官の地位にある。未来の宰相!
そうか、こいつとの初対面はここだったのか。前世ではいつの間にか顔見知りになっていた記憶しかなかったのだが、ありありと思い出した。めちゃめちゃ弱かったため、初戦で戦っていたことなど忘れていたのだ。なにせ前世では、一撃で跪かせたからな!
気分的には血祭りにしてやりたいが、そんなことをすれば俺の計画は頓挫する。堪えろ、俺!
「はじめ!」
開始の合図が響いた。俺は剣を両手で握り、間合いを取った。適当に2度3度うちあったら誘い込ませて負けよう。
「たぁ! はっ! やぁ!」
我ながらやる気の無い、本当に覇気の無い掛け声で、俺は一歩前へと出た。
すると一瞬ユーリスの瞳が鋭くなった。ん? あれ? この感覚。こいつ結構腕がたつだろう。しかし剣を横にしたユーリスはヘニャヘニャしながらさも必死そうな表情に戻って剣を受け止めた。危うく押し切ってしまいそうになった俺は、力を抜いて一歩後ずさる。さぁ! さぁさぁさぁ! お前、その力量なら踏み込んでこられるだろう!
「くっ、さ、流石は第二王子殿下……!」
しかしユーリスがそんなことを言った。は?
ぽかんとした俺にやっとユーリスが踏み込んできた。しかしあからさまに俺が受け止めやすいように剣の軌道をゆっくりとそらしてきやがった。な、なんだと?
俺は慌てて受け止めたふりをしながら焦った。そして気づいた。こいつ……まさか……俺同様負ける気か!? ふざけるな! さっさと踏み込めええええええ! 俺を負けさせてくれえええええ!
しかし相手も別の意味で負けてはいない。
何度かの打ち合いの末、向こうも悟ったのか、とにかくひたすら転ぼうと試みているのがわかる。
なんだこの攻防!
俺とユーリスは自分が負けるべく必死に、へなへな剣技を繰り広げることとなった。
そして一時間の死闘(?)の末、先に根をあげたのは、幸いにもユーリスだった。当たり前だ。俺は命がかかっているんだからな!
地にお尻をついて、弾き飛ばされた剣の音を聞き、俺は安堵したのだった。
「お怪我はありませんか?」
「な、ない」
戦闘終了後、差し出された手。それを取ら無いのも悪いので、指を乗せて俺は立ち上がった。少なくとも前世ではユーリスに剣の力があった記憶はない。使っているところを見たことがない。多分、隠していたんだろうな。こいつ、喰えない。やばい。俺は背筋が冷えた気がした。ユーリスに関しては、今後極力関わらないべきだ。絶対危ない。
こうして重要なことを再認識し、俺の武道会初戦敗退という目標は達成されたのだった。なおこの大会のおかげで、前世では天才だと広まった俺の噂は、今回は、第二王子は無能という噂に変わって広まっていった。計画通りである。そこは本当に俺、GJ。
その後俺は、11歳までの間、おとなしく日々を過ごした。
さてここまで仮病を使いまくり病弱風で押し通してきた俺。
そろそろ良いだろう。
母方の侯爵家に引っ込もう。
特にユーリスという危険因子の存在も明らかになった以上、早いうちに王宮生活をドロップアウトして、スローライフに移行したかった。
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