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【8】スローライフへの伏線。③

 切り出し方には少し迷ったが、俺は三ヶ月に一度開かれる、父である国王陛下と、正妃様、俺の母を始め子供のいる側妃、第一王子である異母兄から俺の下の妹弟達までが集まって開かれる茶会の場で切り出すことに決めた。母にだけは事前に伝えておいた。母はいつもの通り微笑しながら「それがフェルの決めた道なら」と言ってくれた。本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。生まれ変わって一番良かったことは、母との出会い(?)かもしれない。さて、一口紅茶を口にしてから、俺は切り出すことにした。 「父上、お話があります」 「なんだい? フェル」 「俺は体が弱くて中々みんなのお力になれません。だからお祖父様の侯爵家でゆっくりお休みしようと思うんです」 「フェルは体が弱いからね。静養か、良いかもしれないね。どのくらい行くつもりだい?」 「元気になるまで暮らしたいと思います。一生かかるかもしれません」  かもというか、俺は金輪際王都に戻る気はないんだけどな!  そんな内心を押し殺し、なるべく儚い笑みを俺は心がけた。  ガタンと音がしたのはその時だった。 「駄目だ! 行かせない!」  テーブルを勢いよく叩いて立ち上がったのは、兄だった。しかも……なんと、泣いていた。え。お前、もう、15歳だろ! 「フェルがいない王宮なんて無価値だ! どうしても行くというのならば俺も行く!」  は? えっ、ちょっ……! 「なんと麗しき兄弟愛なのでしょう」  正妃様が扇で顔を隠した。目元には涙が光っている。感極まっている様子だ……。 「あ、兄上は将来父上の後を継ぎ国を導かないとならな……」 「国は大切だ。でも俺にとってフェルは何にも変えられないかけがえのない弟なんだ! お前は俺が守る! そのためには、王位など邪魔なだけだ!」  う、嘘だろ? 前世でお前あれほどこだわっていただろうが! 「王宮で卑しい噂話があり、フェルが悲しく辛い思いをしているのはわかっていた。兄として今後それを一掃する! 誓う!」  いや別にあの程度で俺の自尊心は傷つかないのだが……。 「ウィズが優しい子に育ってくれて本当に嬉しいよ」  父が噴き出すように笑った。た、確かに優しいかもしれないが……優しすぎるだろう! 「けれどね、フェルの体調の件は憂慮しているんだ。なんとかこの王都において療養できると良いんだけれどね」  穏やかだったが心配そうに父が俺を見た。うあ、心が痛い。仮病です、ごめんなさい。  しかしこの流れ……行かせてもらえなさそうじゃないか……? 「そうですわ、陛下! 確か、宰相補佐官のユーリスの生家、アルバース子爵家が異国から滋養の薬草を輸入したとか」  正妃様がパチンと扇を叩いた。 「ユーリスに話を通し、フェル様の体調にあった薬草を煎じてもらってはいかがでしょう?」 「まぁ……正妃様! フェルのためになんと温かいお気遣いを……!」  乗り気な調子で母が頬を染めた。え。えええええ。 「よしわかった。すぐにアルバース子爵に連絡を取り、ユーリスには補佐の仕事のほか、フェル専属の薬師の任も与えよう」  父が断言した。この展開は前世ではちょっと違ったがあった。正妃様はアルバース子爵家を贔屓にしていたという事実がある。そして前世でユーリスは、当時既にこの年の頃は働き出していた俺に、疲労回復の薬草を定期的に持ってきてくれる任にあったのだ。そこで俺は唆されたのだ。うわああ、地味に前世をなぞってるよ! 歴史、大きくは変わってないよ。  それにしても。  病弱はアウトだ……! 俺は発見した。第二案に行くしかない。見限られ作戦だ。俺はこちらの伏線も常々張ってきたつもりだ。魔術も召喚術も剣術も勉強もできない俺! 行け! ファイト! 落ちこぼれてグレた感じを目指せ!  こうして俺の、新たなるドロップアウトのための作戦は開始された。

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