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【9】気を遣ってグレながら(将来の)宰相と渡り合っていたら忘れていた。

 俺はグレた。 「あ? 邪魔なんだよ。今俺は忙しいんだよ、睡眠にな!」  とりあえず非常に申し訳ないが侍女侍従の皆様に強く当たってみた。  皆、困惑したようにそそくさと俺の部屋から出て行く。入れ違いに入ってきた侍女の顔色も悪い。 「フェル様、か、家庭教師の先生がお見えに……」 「はぁ? 俺は寝るのに忙しいっつってんだろ! 誰が勉強なんかするか! 帰せ!」 「か、かしこまりました……」  ちょっと心は痛むがしょうがない。  次に俺の部屋の扉がノックされたのはお茶の時間だった。 「第二王子殿下、隣国より届いたお菓子をお持ちしました……」 「いらない。俺は辛党なんだよ!」 「煎餅です……」 「気が変わった。俺は今から甘党だ! 出て行け!」  我ながら理不尽だと思う。しかし、俺にはもはやこの道しか残されていないのだ。  ……だが大層グレ方に気を使った。これでも使っているのだ。  まず兄と険悪になってはならない。よって「ウィズなんか大嫌いだ」というセリフは使えない。しかしこの兄、毎日のように俺を慰め(?)に来るようになってしまった……。 「フェル……そう自暴自棄になるな。何も焦ることはないんだぞ」 「……」 「何があっても俺がついているからな。お前は、お前のペースで歩めばいいんだ」  すでに父の仕事を幾つか肩代わりを始めていて忙しいくせに、足繁く通ってくる。  仕方がないので俺は(引きつった)笑みを浮かべて、兄に対しては頷いている。  周囲も兄も、俺が自分の落ちこぼれ具合に嘆いていると、俺の意図通り理解してくれているようなのだが……まさかこの展開は予想していなかった。俺は必死で無言を貫き通しながら、最後には俺の頭を撫でて帰っていく兄を見送っている。ほぼ日課である。  次に、ここまで大切に育ててくれた母を悲しませることもしたくない。  よって「母上なんて大嫌いだ」も使えない。  さすがにまだ幼い妹弟に対してきつく当たるのも良心が痛む。  勿論父や正妃様に逆らうなんていうのは死亡フラグだからアウトだ。  そういうわけだから、とりあえずやったのは、わがままの限りを尽くして家庭教師を全て追い払うことからだった。食事に顔を出すのもやめた。  服は着崩した。  外見から入ってみた。  ジャラジャラとピアスなんてものをつけてみた。が、これはなんだか評判が良かった……なんでだよ。  あとは口調を変えた。これはまぁ、前世通りに戻したと言える。俺はもともとお上品な方ではない。 「まぁ、これが噂に聞く反抗期ね!」  と、母は微笑ましそうにしていた……。  意図的にグレるって結構難しいな。  あとは性的に奔放になったりしてみればいいのだろうか……?  だけど俺まだ12歳で二次性徴もこないし大人か子供かと言われたらきっぱり子供だと断言できる外見なんだよな……。前世でも13歳でやっとちょっと背が伸びたのだ。  まだ女遊びは厳しいと思う。相手にしてもらえるか不安だ、というか、俺、勃つかなぁ。ちなみに前世での俺はくそモテた。それはもうモテにモテた。男にも女にモテた。兄が片思いしていた相手にまで告白された。あれもきっとフラグだな。黒髪に青い目の美人だった。俺と同じ色彩の持ち主だったことを覚えている。夜会で一曲、頼まれて踊った時など、兄が嫉妬の眼差しでこちらを見ていた記憶がある。  とはいえ、前世で俺は忙しすぎて、恋にうつつを抜かしたりは一切しなかった。  そもそもあんまり軽いのは好きじゃない。兄も純情派で、身持ちは固かったな。  父上は男も女も大好きな博愛主義者(?)だけどな。そこは俺たちはどちらも似なかった。 前世で俺は兄に後宮を持つように進言するよう頼まれて、兄に結婚しろと言ったら激怒されたことがある。好きな相手でもいたんだろう。  なおこの国は、始祖王の後添えが男子だったから、同性愛も多いのだ。  だから父上の側妃には男もいる。  俺自身はそもそもこれといった恋愛をしたことがないわけであるが、好きになった相手なら性別はどちらでもいいと思っている。  ああ、今世でこそ、穏やかな恋愛もしたいな……。  とりあえず出だしから不安だが、俺はグレ続ける!

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