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【14】王都にいてスローライフはできないか、というか他にも考えることがあった再会。③

 そんなこんなで、俺は14歳になった。  14歳から王族の子女には、慣例で護衛の近衛騎士がつく。 「お初にお目にかかります、フェル第二王子殿下。この度近衛の任を拝命いたしましたワルバーラ伯爵家が次男、ライネルです」  俺は鴉のぬれ羽色の髪と紫紺の瞳を見て息を飲んだ。あ。ライネルだ。  出会った時と全く変わっていない。  前世でも彼は14歳になった時から、俺の近衛をしてくれていた。正直前世では俺は最強だったから、護衛なんていらないと思っていたのだが、ライネルだけは特別だった。寡黙で余計なことは決して言わない彼は、ただ忠実に俺に従ってくれたものである。前世での腹心の部下を一人あげろと言われたら間違いなく彼だ。基本無表情の彼は、ごくたまに笑う。俺はたまにその穏やかな表情を見ると嬉しくなったものだ。だけどそれがあんまりにも当たり前すぎたから、俺は労いの言葉一つ満足にかけてやることはなかった。今ではそれが悔やまれる。  前世では最後まで俺に付き従ってくれて、最後は召喚獣との契約を解除する時間を作ってくれた。  ――多分こいつも処刑されたんだと思う。  俺のせいで。  こいつには権力欲とかは全然なかったのにな。 「フェルだ。これから、よろしく」 「もったいなきお言葉です」  このようにして、俺には護衛の近衛騎士がついた。だが今世では護衛されるような危険な目に合うつもりは毛頭ない。ライネルにも、穏やかな人生が訪れるように俺は祈ろうではないか!  さて、14歳の生誕祭のその日。  王宮には来客があった。もちろん俺を言祝ぎにきたものが大多数なのだが、その中に、特別視されている一人の青年がいたのだ。深々とローブのフードを被っている。だが俺はその中の顔が存外若い青年だということを知っている。彼は、王宮においても顔を隠すことを許された貴人だ。人々は彼をこう呼ぶ。奇跡の大賢者、と。  まぁあれだ。俺が生まれて3日目にやってきたのもこいつである。  嘘か真か不老不死なのだという。実際のところは知らないが。そして名前もこいつは決して前世でも教えてくれなかった。顔を見たことがあるだけでも俺は特別だった。 「気のせいだと思ったのが気のせいだったようです」  王都防衛の件に、賢者は触れ、俺をたたえた。  ……実は前世では結構いい友達だったんだよな。なんだかんだで飲み友達的な仲に落ち着いていた。よく二人で、世界について語り合ったりしたっけな。思い返せば、権力なんて捨ててしまえと、唯一俺に釘を刺してくれたのもこいつだったな。  ただその時でさえも、名前は決して教えてくれないから、賢者って呼んでたんだけどな。前世の通りなら、こいつは今後もちょくちょくやってくる。また仲良くなれるといいな。  こうして考えてみると、俺には部下も友人もいたのだ。  悲惨な末路だったが、決して不幸なだけの一生ではなかったらしい。  だが今世でこそは、もっともっと幸せになってやる!  そんな風に誓い直した生誕祭だった。  そして俺には、もう一人会っておきたい相手がいた。  前世で俺の剣の師匠だった冒険者……ガイルである。  久々にその名を目にしたのは、生誕祭から三ヶ月後のことで、アイロンがかけられたばかりの大陸新聞を見た時のことだった。彼は、南方の海を最近騒がせていた大海賊、ネコソギ海賊団を壊滅させたのだという。猫型の髑髏マークの海賊旗の一団の噂は、この国だけでなく大陸中を震撼させていたらしい。壊滅させた領海が、この国ワールドエンドだったため、ガイルは表彰されることに決まり、王宮にやってくるそうだった。俺はワクワクしながらその日を待った。  そして無理やり、会わせてもらうことにした。このくらいのわがままはいいよな? 「おうおう、第二殿下か! お会いできて光栄だ!」  会うなり、ガイルは豪快に笑った。懐かしさに涙腺が緩みそうになった。  前世では、こいつは俺の前で死んだのだ。  処刑されようとしていた俺を、その処刑台のところまで乗り込んで助けようとしてくれたのだ。今でも、槍に倒れた彼の最後の姿をよく覚えている。今世では、絶対に死なせない。 「様々な武勇が聞きたいから、今後も王都に立ち寄ったら顔を出してくれないか?」 「嬉しいぜ。俺でよければいつでもな」  俺はその言葉に胸が温かくなったのだった。  なんだか久方ぶりの再会で、俺は嬉しくなっていた。  誰かにこの気持ちを存分に吐き出したくなって、俺は無意識に指輪を握りしめた。  俺が転生したことを知っているのはラクラスだけだ。  だから喜びを分かち合ってもらえるとしたら、と考えたのだ。  静かにその名を呼ぶ。 「ラクラス」  すると次の瞬間には人型のラクラスがそばに立っていた。  俺は心踊らせながら今日までの出来事と再会について一方的に語った。  ラクラスは……面倒臭そうな顔でそれを聞いていた。あ、やばい、語りすぎたか?  我に返ってラクラスを改めてみた時、舌打ちされた。  そして。  不意にギュッと抱きしめられた。 「俺との再会ももっと喜べよ」 「も、もちろん嬉しいぞ?」 「あのな、俺がどれだけ待ったと思ってんだよ。お前だから待ってたんだよ」 「ラクラス……ありがとう……」 「そもそもあのとき俺を逃がす必要なんてなかったんだ。ただ一言、全員殺せと、そう命じれば良かっただろ」  そう言ってラクラスが、俺を抱きしめる腕に力を込めた。  それは……そうなのかもしれなかったが……俺はその選択は全く考えなかった過去がある。今になって思えば不思議だ。 「ラクラスには本当に苦労をかけたな」 「別に。もういい。じゃーな。俺は酒でも飲みに行ってくる」  ラクラスはそういうと消えた。一人残された俺は、ちょっとだけ幸せだなと思った。

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