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第二章 彗星・21
和宏の肌は、やはり抜けるように白い。
夜目にも浮かび上がるほど。まるで女のそれのように艶めかしく蠢きつつも、女と同様の円みは無く、ただしなやかさだけが目に付く。
未成熟な割に……いや、だからこそかもしれないが……敏感に反応する身体は、触れる度に呼吸音と連動して波打つ。
吸えば簡単に紅く痕になったが、そうでなくとも、指で辿った軌跡さえ染まり残ってしまうのではないかと思われた。
先日は、精を放出させる為だけにした行為だ。だが、これは違う。
局部だけでなく、全身で感じられるよう、丁寧に愛撫する。己の感情を、再度認識するためにも。
胸の突起を口に含み、舌で転がす。未知の感覚ではあるだろうに、当たり前の様に膨らみ、堅く痼る。
頭の中では、和宏は自分の身に何が行われているのか理解できてはいまい。意識せずに洩れる声を、必死に抑えようと口を塞ぐ。
「別に我慢しなくてもいいんだぜ?ここじゃ、俺の他は誰も聞く奴はいねぇ」
そう言うが、ふるふると首を横に振り手を離そうとしない。それをわざと引き剥がし、押さえつける。
「その声も、知りたいことのひとつなんだが、な?」
「だ……って。じぶん、の声……はずかし、ぃ……っ」
ならば、と口付けで塞いでやる。熱くとろけた吐息ごと飲み干す。
陰茎を掌で絡め取り、くちりと扱いてやると、和宏は思いの他早くに達した。
自慰すらしたことがないのか、とは以前も考えたが、此度は少々構えていたせいもあるだろう。
指に滴った白濁を舐め取り、すぐさま双丘の奥へ滑らせる。適度なぬめりは、潤滑油を交えてすんなりと指先を導いた。
「っひ、ぁあ……っ!!」
先日も内に指は挿入させたが、今回は馴らす意味もある。
それまで俺の指以外など受け入れたことはないであろう秘門は、この期に及んでも動かしようのないほどしっかりと締め付ける。
「おい、力抜け。これじゃぁ指しか入らねぇぜ?」
その言葉に、和宏はびくりと跳ね、目を向ける。
指の他に何を押し込まれるのか、まったく思い至っていなかったようだ。
「……え……?」
「とにかく、呼吸は止めるな。ゆっくり、深く吐いてみな?」
体液と潤滑油を絡め、中を掻く。にちゃり、という湿った音を立て肉壁が皮膚に吸い付く。
「……っぅ、く……っ!」
切なげな和宏の声が、くちゅくちゅという淫音に混じる。ゾクリ、と肌が粟立つ。欲情を誘うには充分だった。
「怖いか?」
逸る気を抑え冷静さを保とうと、そう投げかける。頷かれれば、ここで止めるつもりもあった。
だが和宏は、目尻に涙を湛えながらもはっきりと否定する。
「だい……じょぶ。じげん、のこと……しんじる、から」
甘い痛みが胸に広がる。こんな感情も、いまだかつて無かったものだ。噛みしめながら指を抜き、己自身を和宏に突き立てた。
「……ひ……っぅああああっっ!!」
解し馴らしたとはいえ、和宏との体格差では、まだ全部収まるとは思っていない。
恐怖心を少しでも和らげるよう、ゆっくりと沈める。だが、秘部はきつく、ぎち、と奥への侵入を拒む。
「痛かったら言えよ?あんまし無理はさせたくねぇからな?」
そう言うも、和宏は再び首を横に振る。呼吸をする毎に、じわじわと自身は内へ飲み込まれてゆく。
一度精を吐き出した和宏のモノも、すでに再度屹立していた。震える先端を撫で上げる。
「……っふ、ぁあっ!」
ヒクヒクと収縮する内部から、熱が伝わる。
先日確認したとおり、和宏の体液からは強い気は受け取れない。
が、今こうして結合している身体からは、どういうわけか何らかの光が読み取れるような気がした。
そこで俺は、初めて気付いたのかもしれない。こいつの持つ「気」、ないし「力」は、いままで出逢った妖や能力ある者のそれとは違う。自覚も成長もしていないが故に、未だまとう空気に拡散しているようなものなのだろうと。粒子状に散らばったものがこいつ自身の感覚の起伏によって、黎明の陽光が満ちてくるようにまとまって、強まっていく。今正に和宏の光が、俺の身体をもろともに包み込んでいる、そう感じられた。
「……んん、っぁ、ぁあああんンン…………っっ!!」
激しく突き動かすのは避けたものの、それでも和宏はやがて二度目の精を吐き出した。
その頃には俺自身も幾分奥まで到達していたが、やや遅れて解き放つ。
それは、明らかにただの肉体的な刺激による射精ではない。和宏の気と、想いと、俺の知ることのなかった温かく深く大きなものに取り込まれたような心地良さ。これこそが、「情を交える」というものに相応しい。
闇の存在である俺が、そんなものを感じるのは柄ではないのかもしれないが。
灯明の如き光の粒が、呼吸を整え微笑んだ和宏の周囲を照らしている。俺には確かに、そう見える。
「ありがとな?」
行為の後に、こんな言葉を口にしたのも初めてだった。だがどうしても言うべきだと思った。緩く落ちた和宏の瞼に、俺は静かにキスを落とした。
*
真冬に比べれば和らいだとはいえ、早朝は未だに空気が冷たい。
帰宅後そのまま家から飛び出した和宏は、幸い制服と上着を着たままここへやってきたが、にしても、あのあと夜を明かしてしまう羽目になったのは少々面目なく思う。
自宅に比べ、ここからだと通学には大分距離がある。その不便に気付いてやれなかったことも。
「そういうもんだと思えば慣れるし」
朝靄の中に、和宏の笑顔が溶ける。
「今日は、鞄、兄貴が持ってきてくれるっていうから」
「それより、身体は大丈夫か?」
一応心配して声を掛けたが、かえって昨晩を思い出させたのか、腰のあたりを腕で覆う。
「だっ、大丈夫だよ!」
ぱっと頬に赤味が差し、上目遣いでこちらを睨む。本当に、くるくると表情が変わる奴だ。
いつまで俺は、その顔を見ていられるだろう。できるならば一秒でも、永く。
とにかく、今は。
「そんじゃ慈玄、いってきます」
じゃあな、でも、またな、でもない。その一言が、新しい生活を予感させた。
季節が変わっていく。桜の春は、もうすぐそこまで来ていた。
── 彗星・完
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