5 / 8
1-2
「癒燐、癒燐っ…」
名前を呼ばれた青年は、思わず、顔が紅くなった。
「わっ、わわわ…。顔が近いです。夜兎伯父様!」
「いきなり、ぼーっとするから僕が驚いたよ。さぁ、三神帝に行こうか…」
「す、すみません」
どうしよう。
綺麗な顔が目の前にあったから、驚いた。
伯父の顔は改めて毒だと確信した彼は、三神帝の屋敷に向かう事にした。
夜兎伯父様の顔は、綺麗過ぎて苦手な部類だ。
だって、父上とは全然違う顔立ちだから…。
青年は父親と伯父の顔を比べてみたが、やはり、女顔だと思うのは伯父である。
幼い頃の父上は女顔だと聞かされていたけど、大人になるにつれ、顔が美形になっていったらしい。
何処で、変わったのかは解らないが、祖父の遺伝が隔世したのか。それとも、曾祖父の遺伝が、ばっちり隔世したのか。
当時は、相当、悩んだとか。
何せ、自覚症状アリの父上だ。
自分の性格を熟知している本人だからこそ、誰の遺伝を引き継いだのかを理解している。
呆れてしまったのは、僕じゃなく、一緒に話を聞いていた彼だ。
視線を男性に向ければ、嫌そうな表情をしている。
青年と一緒じゃなく『ソナタと一緒か』と、今にでも溜め息が溢れてきそうな雰囲気が漂う。
それを楽しむかの如く、小さな声音で『残念』と呟く彼は、にっこり微笑んだ。この微笑みが表す意味を知っている男性は苦笑い。
うわぁ、顔が引きつっているよ。
あれは…。
相当、嫌という意味が含まれている。
彼の表情を読み取った青年は、一驚するのも良いが、次の科白は大抵、決まっているのを知っていた。
相手に打撃を与えるのが得意な父親に対して、男性は『相変わらず良い性格している』と言いたいのだろう。
だとすれば、勿論、彼も父親に嫌な思いをさせるのが得意なのだろうと推測した。
ともだちにシェアしよう!