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第2話 上司がいるなんて聞いてないし「この後どう?」じゃない

目の前にいたのは宮藤暁斗(くどう あきと)。俺の上司だった。 なんでこの人がここにいんだよ?! 「奇遇だなぁ。こんな所で会うなんて」 「はぁ……」 やべー。なんでよりによって鬼怖すぎて苦手な課長が来てるんだよ…… 相変わらず見た目はムカつくくらい男前だ。そういや人だかりできてて近づけないエリアがあったけど人の壁で見えなかった中心にいたのがこの人だったのか。 「お前もだったんだな」 「そう……?」 「いや、だからこっち側の人間だったんだなって」 「え……?」 あ、ゲイってこと?!いやいやいや誤解だよ! 「あ、いや俺は今日バ……」 バイトで……って待てよ。副業禁止なのにこの上司にバイトのことバレて上に報告されたらヤバくねえか? 「あ、俺……そうなんすよ!実は男が好きなんすよね!あははは」 おい、俺何言ってんだ!?いや、でもこうするしかないよな。とにかくこの場をなんとかしのがないと…… って何だよみんなこっち見てんじゃねえ! 遠巻きにだが、会場内で人気のある2人が喋ってるので微妙にチラチラ見られている。 クソ、悪目立ちしたらサクラ的にはよくないぞ。次もあるんだからな…… バイトの方も本業の方もピンチだ。だからこんな手伝いしたくないんだよおおお! しかし周りの目よりもヤバかったのは上司の目だった。あれ?なんか……ギラギラしてません? 「新木……そうだったのか。ああ、お前の出会いの邪魔をしちゃ悪いな。それじゃ」 「あ、はい……?」 ほっ……。根掘り葉掘り聞かれるかと思ったけど意外とあっさり解放された。 あっぶねーー。バイトしてるのバレたら懲戒解雇もあるからな。しかももっとまともな副業ならまだしもカップリングパーティーのサクラなんて、バレたら色んな意味でヤバい。 とりあえずこのパーティは無事終わった。他の参加者達が帰るまでトイレで時間をつぶしてからビルを出る。金曜の夜だからどこかで飲んで帰ろうと思っていたところで声を掛けられた。 「あ、君ちょっと」 「はい?」 ああ、なんかさっきこんな人会場にいたな。割と普通なサラリーマン風の30歳前後に見える参加者だ。まだ帰ってない奴いたのかよ。 「もしこの後何もなければ、一緒に飲みにでも行かないかなって」 やれやれ。これが嫌で時間つぶしてから出て来たのに意味ないじゃん。 「あー……いやぁ……」 「あ、ごめんね。誰ともカップルになってなかったみたいだからいいかなぁって。これも何かの縁だと思って!ね?奢るからさ。」 「すいませんけど、俺ちょっと……」 あんまり強気に断ってクレーム入れられるとまずい(姉にボコられる)から穏便に済ませたい。しかし見た目は普通に見えて性格はしつこいタイプのようで、強引に手首を掴まれた。 「ほら、お腹空いてるでしょ?俺いい店知ってるんだ。ね、行こう」 「ちょっと」 触んなよ! 仕方なく振り払おうかと思ったとき横から現れたのは上司だった。 「新木、待たせたな」 「あれ、宮藤さん……」 なんか知らんが助けてくれるらしい。 「さぁ、行こうか」 「はい。というわけなんですいません」 俺は掴まれた手を軽く振り払って笑顔で挨拶した。 「な、なんだ~。格好いい彼とカップルになってたなら先に言ってよ。じゃ、じゃあね!」 話しかけてきたサラリーマンは分が悪いと悟って引きつった顔で笑いながら立ち去った。 「はぁ……よかった。ありがとうございます課長」 「ああ。まだ帰ってなかったんだな」 「あ、はい。トイレ行ってて」 「ふぅん。誰ともカップルにならなかったの?」 「はい」 サクラだから当たり前だろ。誰がカップルになんてなるかよ! 「じゃあ、この後どう?」 「へ?」 どう、じゃねえ!俺はひとりで飲んで帰りたいんだよ。なんでこんな怖ぇ上司と金曜の夜に飲んで帰んないとなんないんだ。罰ゲームかよ! 「どうせこんな所に出会い探しに来てるんだから暇だろ?」 10センチくらい上から見下される。俺も身長175cmはあるんだけど……。 しかし顔がいいな。 ハッ!そうだ。この人は仕事では鬼だけどクソイケメンなんだよな。出会い探しに来たゲイがこんなイケメンに声かけられて断るなんて、もしかしてサクラって思われちゃうんじゃね!? 「あ……暇でーす……」 「じゃあ行こう」 ひーっなんか声が甘いし腰に手を添えるのやめて?!ぞっとするから~! 「は、はい……」 怯える俺のことを見て「緊張してる?可愛いな」とか笑いながら言うのをやめてくれ。 違うんだ……こんなはずでは……待ってこれ、飯食って酒飲んだら解放してもらえるよね?よね?! どうなっちゃうんだ俺!?

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