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第3話 こんなお店初めて〜♡なんて言わないからな?
そして俺は落ち着いた大人な雰囲気のバーに連れてこられた。
普通に居酒屋で飯食いたかったのに……腹減ったよぉ……
席についてすぐ腹がグーグーなってしまい、赤っ恥をかいた。こんなバーで俺、めちゃくちゃ場違いじゃん。泣きたい。
しかし課長は気にせずマスターに何か頼んでいる。
まあ、ゲイのカップリングパーティーで上司と会うこと以上に恥ずかしいことなんて無いか。ははは……
何飲むか聞かれて、普通にビールを頼んだ。だってカクテルとか興味ねえしな。
そしたら課長も俺に合わせてビールを頼んで一緒に飲んでくれた。ウォッカとかウィスキーとかじゃないんだ。
え?もしかしてこれって優しさ?
しかも少ししたら裏メニューとかいってカレーが出てきた。
え~!嬉しいんですけど~~!
しかもめちゃくちゃ美味い。なんだこれ!
「これすげー美味いです!」
課長はガツガツ食う俺のことを楽しそうに眺めていた。
「だろ?まかないで出してるやつなんだけど頼めば食べさせて貰えるんだ」
「へぇ、課長ってここの常連なんですか?」
「マスターが高校の同級生なんだよ」
「ああ……」
マスターを見るとこちらに向かって静かに微笑み返してくれた。
その後もマスターは会話に無駄に入ってくるわけでもなく心地よい距離感で接客してくれて俺はこの空間が思いのほか気に入ってしまった。
良い感じに酔っ払った俺はすっかり鬼上司への警戒心を無くしていた。
「いやー、この店すごく良いですね!連れてきてくれてありがとうございます」
「だろ?会社の奴を連れてきたのはお前が初めてだよ」
「え」
いきなりめっちゃ良い顔で微笑むのやめてください……イケメンすぎて目が潰れる。女なら惚れてるわ。
ーーーって、そうだよ!忘れてたぜ。俺今ゲイ設定で課長に連れて来られてたんだった!!
普通に上司と部下の感じで食って飲んでた!
「今夜新木と会えて嬉しかったよ。理解者が同じ会社にいるなんてな」
理解者て。
「あ、あははは。そ、そうですね。俺もなんか安心しました……」
んなわけねーだろ!よりによって鬼の宮藤だぞ。ガンガン仕事振ってきてやっとこなせたと思ったら「まだいけるよな?」って追加で押し付けてくるような人だ。
職場では笑顔ひとつ見せねえし(女子社員相手なら知らんけど)、企画書とかちょっとでも手を抜いたら容赦なくコテンパンに貶してくるし……
こんな上司親近感持たれても困るっつーの。
その後はゲイあるあるみたいな話になって、そこは兄もとい姉のエピソードを拝借して何とか乗り切った。リアルな話だから多分信憑性はバッチリなはず。
俺は何とかこの場を乗り切るためにいつもよりハイペースで酒を飲んでしまっていたようだ。気付いたときにはなんかフラフラで、課長が店を出ようと言ったから立ち上がったらまともに立てなかった。
「あ、あれぇ?……すいません、なんかおれ……飲み過ぎたぁ……」
「おいおい……お前酒弱かったのか?」
「んなことないっすよぉ!まだいけるし、もう1軒なんならいきますぅ?」
あれ……?俺何言ってんだよ、アホか!
「やれやれ、タクシー乗るぞ」
「あ~い」
「おい、住所言えるか?ん?」
あー……なんか、課長の胸あったかい……腕太いなぁ、スーツだとあんまわかんなかったけど鍛えてるなこれ……
「むにゃむにゃ……」
「だめだ、寝やがった。ったく……こっちの気も知らないで」
「ん~~、もう一杯カレーは無理っしゅねぇ」
頭を撫でられた気がする。なんか、疲れたなぁ……おやすみなさーい
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