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#3 再会
夏休みが終わり、気づけば二学期の始業式を迎える朝になっていた。
真新しい制服に身を包み、僕は通常とほぼ同じ登校時間に学校へ向かった。これから通う学校の雰囲気を、少しでも早く感じて慣れたかったからだ。
ここHE高校は、僕がこれまで通っていた隣県のN高校より大分校則が緩いらしく、色とりどりの髪色、思い思いな装飾や着こなしを楽しんでいる生徒がしばしば見られる。
一応その中から大きく外れてはいないのか、僕を転校生だと注視する存在はない。休み明けでありながら、生徒達の表情は明るく、初めて接した躍動するこの学校の、居心地は悪くなかった。
校門を抜け、職員室へ向かい横山先生を訪ねた。他の生徒は始業式のため、僕は別室のテレビでその様子を観たり、オリエンテーションを受けた後に、2Fの教室へ着くことになっている。
転校初日が近づくにつれ、夏休みに会ったあの少年のことを思い起こす瞬間が増えてきた。
あの日、横山先生にそれとなく尋ねてみたところ、
「ああ、橘 といって、同じクラスの奴でな……。……少し奔放な奴で、驚かせて悪かったな」と説明するに留まり、それ以上語るのは避ける様子を漂よわせ、彼のことはそれきりだった。
『いるのかな。……いるんだろうけど』
彼の存在は、鮮烈だった。日が経つにつれ、徐々に褪せていく部分はあったけれど、彼の瞳、陽を浴びて反射し髪とひとつに溶けあっていたひかり、色。
表情、声音、細い肢体は、まだ頭の中に滲むような色合いを残している。
そこへ記憶をたぐり寄せていたところ、ドアの開く音がして、横山先生が入室して来た。
彼の記憶は霧散し、急速にやって来た緊張とともに、今度は新しいクラスメイト達が揃う2Fの教室へ向かうこととなった。
廊下からも教室内の喧騒はよく聞こえた。
横山先生が扉を開けると、それまで充満していた雑音が一気に静寂に包まれた。
横山先生の後に続く。揃ってこちらに向けられる視線に内心怖気づいてしまう。
父さんの転勤でこういうのは初めてじゃない。だがこの瞬間は、どうしたって緊張する。
「休み前に言っておいたが、今日からこのクラスに入ることになった、松原 裕都 君だ。S県から親御さんの転勤でやって来た。色々と教えてあげるように」
「……松原裕都です。よろしくお願いします」
至って味気なく、緊張のため自己紹介にもなっていない、単純な先生と同じ名前の復唱になっていた。けれど、
「いえー」「よろしくー!」
「松ちゃんだね」「松ちゃんなの? 許可取ろうよ」
「てか、イケメンじゃね?」「ね、俄然爽やかだよね、イケメンだ!」
賑やかな拍手とともに、フランクな言葉が次々と掛けられた。
思ったより親しみやすそうなクラスの雰囲気に、僕はひとまず胸を撫でおろす。(……イケメン?)
横山先生が咳払いをし、
「松原の席は……窓際の一番後ろ、……橘の隣だ」
『え、橘……?』
聞き覚えのある苗字に窓際の最後席を見ると、夏休みに会ったあの少年が、ひらひらと掌を翻し、見覚えのある色を浮かべた微笑とともに座っていた。
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