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#10 濃灰と橙の校舎
転校初日があっという間に終わりを迎え、帰宅の途に着いていた。
午後のホームルームを終えた後、クラスの皆が部活を幾つか周りながら案内してくれ、下校時間が近づいた頃にお開きとなった。
柚弥は帰宅部だと告げ、今日は用事もあるということで「また明日ね!」と挨拶をくれて放課後に別れた。
帰路方向が同じクラスメイトとも別れ、駅前にあるバス停へ続く本通りを下りながら、過ぎ去れば束の間だったが、充実した転校先での初登校日を思い返していた。
一番印象に残っているのは、やはり隣にもなった柚弥の存在だ。
綺麗な子だし、明るく愉しくて思ったより親しみやすく、多少奔放なところもあるみたいだが、さり気ない気遣いも沢山見せてくれて、素直に良い子だった。
クラスの皆も親切で、入った当初からとても打ち解けやすい雰囲気だったし、始めは緊張していたけれど、明日から何とかやっていけそうだと、僕の胸に安堵とこれからの学校生活への明るい期待が広がっていた。
早速出ていた宿題を頭の中で振り返りながら、はたと立ち止まった。
英語のワーク。今日この学校で授業後に渡された物だ。宿題の箇所を教科書に付箋で残しておいたが、肝心のワークは中身を後で確認しようと思って机に入れて置いたままな気がする。皆に話し掛けられたりで、机からリュックに移した記憶がない。
背負っていたリュックを前に持ってきて中身を確認する。
ない。やっぱりない。立ち止まって二、三回通して繰り返し探してみたが、見落としなどではなくないものはない。
夕空を仰ぎながら一瞬考えたが、都合良く解決できる選択肢など他に存在しない。脱力しながら回れ右をして、僕は元来た道を戻り始めた。
いくら転校初日で慌ただしかったとはいえ、いきなり宿題を忘れてくるなんて、生来のうっかりぶりに呆れてしまう。
下校時間を迎えちらほらと帰宅する生徒とすれ違い、その中を逆行していて力なく恥ずかしい。
午後五時を過ぎていたが、辺りはまだ夏の濃厚な橙の余韻を下方に残し、充分に明 らかだった。
すっかり人気 を失った校舎の中へと入る。そもそも二学期の始業で早く帰宅する生徒が多く、それ以外は殆ど部活に出払っている。
夕暮れの橙が校内にも溶け込んでいて、陰の濃灰との対比 が際立ち、鮮やかな陰 を窓枠の輪郭として廊下や壁に映し出している。
明るいが昼間とは違い、人がいないのも相まって、今日来たばかりだがどこか違う場所へ迷い込んだような、異質な空間を想わせた。
早く済ませてしまおう。今度は迷わず2Fを目指すことが出来た。
足早に歩いて教室のドアが見え始めた頃、聞き覚えのある笑い声が聞こえた気がして、僕の足は歩みを緩めた。
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