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#15 桔梗 *
愛撫を受ける度に、柚弥の唇からくすぐるような、ため息みたいな声が恍惚と漏れる。
やだやだ。だめ。やめて。拒否の言葉であるのに、その温度はそれとは真逆の疼きに濡れそぼっていて、その声音は雄の心をいたずらに昂らせるばかりなのだ。
どうしてこんなことになった。昼間の柚弥の屈託ない笑顔が崩れ去っていく。
からだが熱い。口の中が乾ききって、痛い。さっきまでかいていた嫌な汗が退くくらい、感じる体温が熱いのか何なのか、おかしくなっている。
気付かれないために息を呑み過ぎて苦しい。それなのに心臓の鼓動が鳴りすぎて鼓膜まで響いているようで、全身が壊れそうだ。
もういい。早くこの場から立ち去ればいい。
そう思っている筈なのに、僕の瞳とこころは、目の前の光景に釘付けになっていて、少しも瞳を逸らすことが出来ないし、強烈な力で縫いつけられたように、身じろぎ一つ取ることも出来ずにいた。
「ねえ……、こんなに可愛がってあげたんだから、ユッキーも俺達にしてくれよ……っ」
目の前の肢体を味わい尽くした少年が、柚弥の脚の間から顔を上げた。
「……ん……、いいよ……」
かろうじてシャツを片方の肩から引っ掛けただけの姿で、柚弥は机から身体を起こし、おののく少年に跨るように伸し掛かった。
いつの間に手にした避妊具を唇に咥え、上目遣いに少年を見つめながら、見せつけるように封を切った。
少年の前に進み、中から出したそれを唇に咥えたまま、口づけるように乗せて指をほんの少し添えただけで、巧みに唇の中だけで、頭を動かして装着していく。
流れる白金 の髪を耳の上で押さえる。伏せた睫毛。開けた唇から紅い舌が見えた。滴る唾液をまぶすように避妊具ごと口の中に包まれる。
容のいい頭が見えて、ゆらゆら緩急をつけて揺れる。慈しむように瞳を伏せ、それに唇と舌を這わせる顔が過ぎって、また沈む。
湿ったなぶる音と、時折急に強く搾り上げるような音が交差し、口の中で丁寧に丁寧に、愛撫しているのが想像出来てしまう。
「ユッキー……っ…!」
柚弥の髪を掴んだリョウの身悶えから、彼の強烈な快感が伝わってくるようで、目眩がした。
「もうずるい、リョウばっかり……っ! ユッキー、後で絶対生で舐めて……!」
「分かってる分かってる、ヨシ君にも後でちゃんと頑張るから……。てかもうやめて、乳首そんなぎゅっしないで、痛いよ……っ」
窘めるような口調には笑いが含まれていた。
少年達に苛まれているようで、実際は彼の方にまだ充分に余裕が隠されているのでは、と思えた。
「うん……。俺ももう、ふたりのことが欲しい…………」
リョウの脚の間から顔を上げ、柚弥は容器に入ったピンク色の液体を指に垂らした。
ぬらぬらとした液体がまとわりつく指を脚の間に忍ばせ、息を詰める。
「リョウ君も、手伝ってくれる……?」
しっとりと上気した頬と潤んだ瞳で、目を逸らせぬままのリョウに問い掛ける。
白い脚の間で指を動かすたびに、柚弥の息は溜めるように零れ、緩急をつけて昇りつめていく。
目の前で、己を受け容れるための施しを、自慰にも等しい姿で晒され、乞われているのだ。
リョウの網膜に拡がっているその光景が、僕の中にも入ってくるようで、こっちまで頭の奥が白くなってくる。
「……嫌だ……。もう、早く、ユッキーにいれたい……っ」
食い入るように見つめたまま、うわ言のように呟いたリョウは、震えていた。
わかった、という風に柚弥は微笑む。
「じゃあもうちょっと待って。いきなりやると、壊れちゃうかもだから……」
「……」
「—— いっそ、壊してみる?」
そう問い掛けた柚弥の瞳が妖しく揺めき、彼の深淵を覗いたような気がした。
「いいよ、全部受け止めてあげる……」
「全部、俺のせいにしていいよ…………」
彼等に与えるため、柚弥は脚の間の指で自身を侵し続けた。
抑えてはいるものの、妖艶な吐息は唇から漏れ、少年たちは喉を鳴らしながらそれを凝視していた。
「…………ん、もういいかな……」
濡れそぼるとはこういうことか。
瞳。声音。肢体に纏わりつく色。
おそらく一等そうなっている場所を、柚弥は彼等に開いて見せた。
その時僕は見た。一際開いた彼の白い右腿の内側に、何か、場違いなくらい鮮やかな花が咲いているのを。
見間違いかと思った。いや、違う。
本当に、咲いていたのだ。
透けるように真っ白な肌に、毒々しいほど鮮やかな紫の花の画 が、みだらな流線を描く翠の葉にくるまれて、狂い咲いている。
さほどの大きさはなくむしろ可憐だ。だがそれは、彼の白い身体を支配するように刻まれており、彼という清廉と禍々しいくらいの蠱惑さとの融合を極まらせて、見る者をさらに惑乱のなかへと堕としいれた。
そうだ、あの花は、
——桔梗の花だ…………。
「来て…………、」
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