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#3 誰

 次の日本史で、机の右下はそのままだった。  気を損ねたか? 描かない日もあったし、まあいいか。  気になったが、そう思うようにしてこの日は授業に集中した。  その次の日本史も、落書きに更新は見られなかった。  え? 休み? それか腹立って席変えた?  波のような動揺を感じたが、どうすることも出来ない。  気にするな。たかが落書きくらいでと、無理に抑え込もうとする。愉しみにしていた源平の騒乱が、耳の左から右へ流れていた。  さらにその次の日本史でも、とうとう机上に1ミリの変化は現れなかった。  いたたまれなくなって、俺は『授業聞けよ!』を消した。  ここへ来て、これまで深く意識しなかった落書きの主がということが急速に気になった。  このクラスはニ年限定だ。一年の選択に日本史はないし、三年は受験対策で移動などしない。2A〜2C、2D〜2Fの各合同で分けられている。俺は2C。2D〜2Fの誰かなのだ。  俺は先生にもう一組の日程を訊いた。俺の席に座っているのが誰か訊けば一発だが、机の落書きに繋がることは秘密にしておきたかった。  次の2D〜2Fの授業は水曜の四時間目。三時間目の俺のすぐ後に、奴が来る。  ストーカーみたいで後ろ暗かった。だけどもう俺は、次の日本史に狙いを定めるつもりでいた。    水曜の日本史が終わった。俺は「片付け手伝います」と断り、授業が終わった後も教室に残った。 「小松原君はいつも熱心で嬉しいよ」楽しげな先生に気まずさを覚えながら、必要ないのにチョークの消耗加減を確認する。  徐々に次のクラスの奴が現れた。ふと甘い香りが掠めた気がして、振り返ると意外な人物が入って来た。  何気なく目で追うと、その人物が気怠げに向かう先は、さっきまで俺が座っていた席で俺は俄かに焦り始めた。  知っている。――2Fの橘 柚弥(たちばな ゆきや)だ。  橘はちょっとした有名人だ。良い意味でも悪い意味でも。  とんでもない美少年だ。白く細い頸の上に、校内で一二を争う完璧な頭蓋が乗っている。  美少年といっても、か弱いとか守ってあげたい(たぐい)じゃない。毒々しい我の強さが滲み出ている。  柄の悪い3年とよくつるんでいる。思い出した。……妙な噂もある。  BL嗜好の女子が好きそうな、中性的小悪魔キャラみたいな容姿だ。そして、それと同じ噂なのだ。  男だけの校内で多数の崇拝者を誇る、でもアイドルで、校内の至るところ、不特定多数と酒池肉林とか何とか……。

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