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「義理立てをせずとも、かまわぬ」

「僕の居た村に、ほとぼりが醒めるまで隠れて過ごせば――いえ、村がダメでもどこかに身を潜めていれば、宗明様の身も安全なのではないですか」 「春――」 ため息と共に名を呟かれ、心臓がわななく。 「そなたの父はもう、快癒をしている。村に戻ったとしても、誰かの屋敷に姉と共に引き取られたとしても、心配はない」 「それじゃあ――」 「義理立てをせずとも、かまわぬ」 違う、という言葉が喉に引っかかり、春吉は顔をゆがめた。 「…………佳枝様を、愛しておられるのですか」 低い、抑揚のない声に宗明はゆるく頭を振る。 「わからぬ」 遠い日を眺めるように宗明は顎を上げた。 「領主になる折、妻になる方だと言われて引き合わされた。領内と共に慈しまなければならない存在だと、私は認識した。簡単に手折ってしまえそうな佳枝を、守らねばならぬと思った。愛しておると、思うていた。だが、今は、わからぬ」 何故、と問う前に答えを与えられる。 「誰かを求めるという事を、つい最近、知ったのだ。それが愛おしいということならば、佳枝に対する私の気持ちは、違っていたのだろう」 「でも、他にどなたも側室に迎えなかったのでしょう」 「そう――迎えなかった。子も、成した。だが、私は佳枝の事を何も知らなかった。――これほどまでに成明を好いておったとは、わずかも気が付かなかった」

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