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「触れて、下さい」

立ち上がり、春吉は臆して震える体を叱咤して、一歩前へ出る。 「村に来たとき、宗明様は姉ではなく、僕を見てくださっていると、感じたんです」 怪訝そうな、驚いたような、困ったような顔をした宗明に、春吉は後悔に押し流されそうになりながら、言葉を押し出す。 「宗明様は、始めから僕を求めてくださっていたのではないかと、思ったんです」 宗明の手が伸び、迷い、春吉に触れずに落ちる。 「初めて見たときに、そなたに吸い込まれるような気がした。触れたいと、あれほど強く願ったのは、初めてだ。今も、触れたくて堪らぬ」 宗明の声が震えている。そのことに、春吉の胸には姉ではなく自分が呼ばれた日のような歓喜と優越が湧き上がった。 「佳枝を責めることは、出来ぬ。私も――春の心情など斟酌せずに腕に収めた。いや、規模はどうあれ、成明をいまだ手に入れられぬ佳枝よりも、私のほうがそなたにとっては酷い相手と思うだろうな」 不安と喜びで鼻の奥をツンとさせながら、春吉は唇を引き結び着物をはだける。 「触れて、下さい」 宗明が、息を呑んだ。 「義理立ては、要らぬと――」 抑えきれず、春吉は小さく震えだす。 「姉ではなく、僕が呼ばれたときに――言いようもない優越感を持ちました。浅ましいと思いながらも、宗明様に求められて、僕は、僕は…………」 視線を落とし、さまよわせる春吉の頬に宗明の手が触れる。

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