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「穏やかで、つい、な」

「はっ、ぁ、ああっ、う、はぁ、あ」 宗明の腹にあたる春吉の牡が蜜をこぼし続けている。抱きしめている手を腰に添え、円を描くように動きを早めた。 「ひっ、ひんっ、やっ、や、あぁっ、らめっ、あ、ぁ」 蕩けるような肉筒の動きが宗明にも絶頂の兆しをもたらす。やがて 「くっ」 「はっ、ぁ、ぁああっ、あ――――――ッ」 短い宗明の終結の音と、春吉の解放の叫びが重なった。 *** 二人で庵に住まうようになって十日あまりが過ぎた頃、宗明は庭先の苔むす岩に腰をかけて朝日を浴びていた。春吉が、隆敏が運んできた米で粥を作る香りが漂ってくる。しばらくして、用意が整いましたと庵から春吉が顔を出し、宗明は日だまりのような笑みを唇に乗せて彼の元へ戻った。 あれから、隆敏が時折運んでくる、宗明にとっては質素な、春吉にとっては贅沢な衣服や食料を頼りに二人だけの生活を続けていた。日が昇れば起き、昼は森の声に耳を澄まし、夕闇がせまれば眠り、時に身を重ねる。春吉がよそった粥を受け取り、一口啜ってほうと息を漏らす宗明に、不安そうな視線が向けられる。 「お口に、合いませんか」 ゆるくかぶりを振り、香の物を口に運び、租借し終えてから声を出す。 「穏やかで、つい、な」 「退屈、ですか」 もう一度、宗明は首を振った。 「なんと言えば良いのか…………。ただ、酷く贅沢だと、思うたのだ」

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