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涙に溺れる上司にヘラヘラと笑いかける
泣き出し床に這う様にして両手で燃えカスをかき集める上司の姿は、十人中九人が憐れむだろう。
しかし残念ながら海輝は残りの一人に当てはまる。
嘆き悲しむ上司を歯牙にもかけず、昼食の事を考えていた。
気分は唐揚げだが、日替わりメニューの牡蠣フライも捨てがたい。
「社食の日替わりメニュー今日は牡蠣フライなんですけど、あれ日替わりと言わず冬季限定のメニューになりませんかね。僕今日唐揚げなんですよね」
等と涙に溺れる上司にヘラヘラと笑いかけるのであった。
「牡蠣フライはソース派? 醬油派? レモン? それともタルタルソース派ですか? 僕はまず牡蠣フライ全部にレモン絞って、一つ目はレモンだけで、二つ目は醬油で食べて、三つ目はタルタルソースで食べて、四つ目は醤油かけた後タルタルソースつけて食べます。五つ目からはその時の気分ですね。あ、ここの牡蠣フライって何個でしたっけ。僕の記憶では六個だった」
鬼畜である。
身代金をぶん取り、解放される人質を迎え入れようと手を伸ばした家人の目の前で残虐に殺す外道同然だ。
悲しみに暮れる相手を前にして、脳天気にランチメニューを語る鬼の所業である。
何故そんな事をするのか。
海輝はその問いにこう答えるだろう。
用無しになった人質はもう不要だと。
第一返すなど交換条件は出していない。
最初から燃やす予定だった。
何故って?錦の権利を奪おうとした罰だ。
欠片でも錦から何かを奪おうとする人間は万死に値する。
しかしプロジェクトが終わる迄に死なれると人員配置が面倒だ。
鬘程度で済んだのだから、むしろ感謝してほしい。
言い換えれば、プロジェクトが終わったら死んでも構わないと言う事だけど。
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