廊下にて、それぞれ昼休憩を終えたカスタマーサポート部の浅野は、すれ違い様に会釈した同期の伊藤と示し合わせた様に互いを呼び止める。 そのまま、立ち話へと発展した。 普段は社内の廊下でこんな風に井戸端会議などしないが、まるで近所のおばちゃんのようである。 「ねぇ、聞いた？　営業部の子から聞いたんだけど。なんかさぁ、朝比奈さん忘年会欠席だったの、上司が一言出ろっていったら素直に応じたんだって」 「まじか、上司って誰」 「プロジェクトリーダーの今田さんらしい」 「うっは。絶対嘘じゃん」 「だよね」 「実際はさぁ――彼女と別れたらしいよ」 忘年会出席よりも、寧ろ失恋の真偽を話題にしたかった。 少しでも情報を仕入れようとどこの部署の女子社員も躍起になっていた。 朝比奈　海輝の恋人情報は誰も何も知らない。 一部では、多忙過ぎて恋人など居ないだろうと言われている。 容姿も整い性格も優しく仕事も出来る。そしてなにより高給取りだ。 これだけ揃えば逆に恋愛婚活市場に出てこないレベルだ。 女が放っておくはずはないし、本人だって選び放題だろう。 そんな引く手数多な男に、多忙だからと言い恋人がいないなんて誰も信じない。 「は？　マジ？」 あ～やっぱり、知らないよね。 少し残念と思いつつ、女友達と噂話を楽しむ。 手の届かない相手の恋愛事情など、テレビの画面越しに見る芸能人のスキャンダルと同レベルなのだ。 「でも、朝比奈さんが彼氏なら普通別れる？　顔よし性格良しで高給取りだよ？　超優良物件じゃん」 「浮気の線は？」 「どっちが？」