46 / 218
脳内錦製造=狂人のなせる技である。
あれはプロジェクト発足一月目の在る日の出来事。
久々にゆっくりできたランチタイム後に、社内のリフレッシュスペースのカウンター席で、海輝は瞳を閉じて錦との愛の語らいを楽しんでいた。
ランチミーティングが続いていたので、一人で過ごせる時間はかなり貴重だ。
瞼の裏側に現れる錦が僅かに微笑む。
オフィス内だから、当然実物が目の前に居る訳ではない。
実在する人物なのでイマジナリ―ではないが、要するに『脳内錦』である。
海輝は錦に対してだけは、恐ろしいほどの執念と執着をもっている。
だから、脳内錦製造などたやすいのだ。
因みに錦に会えない海輝の日課である。
柔らかな髪や肌の質感、睫に縁どられた瞳の輝き。
香りや体温まで完璧に脳内で再生をする。
過去の記憶に添う事も有れば、錦が話しかけてくることもある。
何か、疲れたなぁと呟き瞼を閉じれば、脳内で錦がそっと椅子に座る海輝の頭を抱いた。
実際の体温は感じない。
だが、海輝はその温もりを完璧なまでに知覚していた。
全ては海輝の記憶によるものである。
それを理解したうえで、海輝は至福の時を味わう。
狂人のなせる技である。
ともだちにシェアしよう!