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脳内錦製造=狂人のなせる技である。

あれはプロジェクト発足一月目の在る日の出来事。 久々にゆっくりできたランチタイム後に、社内のリフレッシュスペースのカウンター席で、海輝は瞳を閉じて錦との愛の語らいを楽しんでいた。 ランチミーティングが続いていたので、一人で過ごせる時間はかなり貴重だ。 瞼の裏側に現れる錦が僅かに微笑む。 オフィス内だから、当然実物が目の前に居る訳ではない。 実在する人物なのでイマジナリ―ではないが、要するに『脳内錦』である。 海輝は錦に対してだけは、恐ろしいほどの執念と執着をもっている。 だから、脳内錦製造などたやすいのだ。 因みに錦に会えない海輝の日課である。 柔らかな髪や肌の質感、睫に縁どられた瞳の輝き。 香りや体温まで完璧に脳内で再生をする。 過去の記憶に添う事も有れば、錦が話しかけてくることもある。 何か、疲れたなぁと呟き瞼を閉じれば、脳内で錦がそっと椅子に座る海輝の頭を抱いた。 実際の体温は感じない。 だが、海輝はその温もりを完璧なまでに知覚していた。 全ては海輝の記憶によるものである。 それを理解したうえで、海輝は至福の時を味わう。 狂人のなせる技である。

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