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国宝級の可愛さ、いや、世界遺産級の可愛さだ。

十二月二十五日。 昨日に続き、妄想錦とは一味違う生錦との会話に海輝はアイスの如きにどろどろだった。 海輝は昨夜の電話ですっかり錦に骨抜き状態になっていた。 元々錦に対しては骨は無かったが、錦が好きすぎて胸が痛いほどだ。 錦は固定電話を使用してるので、背後からはジャズアレンジされたクリスマスメドレーが聞こえる。 結構な大音量で流れているのか、昨日より賑やかな空気だ。 そんな中、時折更紗の高い笑い声が聞こえる。 恐らく笑い方からして、酔ってる。 楽しそうだね。と笑えば錦は溜息を付く。 夕食を終えた後はクリスマスケーキの出番だ。 それから、ずっと飲み食いしてるので体に悪い。 いい加減終わらせた方が良いと呆れていた。 錦は食事制限がある為、基本的に皮の薄いフルーツやクリームを使用したスイーツは口に出来ない。 巷で売られているクリスマスケーキは当然食べる事は出来ない。 かと言い、シュトーレンやクグロフなどもナッツやドライフルーツが入ってるので禁じられている。 元々甘味が苦手な錦は、スイーツなどに未練は無いようだった。 しかし、海輝としては同じ屋根の下で若狭や更紗が二人でパーティーをとことん楽しみ、クリスマスを満喫してると言うのに些か不公平だとも感じる。 『若狭先生や更紗は糖尿病予備軍と言っても過言ではない程には甘い物が好きなんだ。それを俺の所為で遠慮させるのは悪いだろ。大体ケーキを食べなくてはならないという決まりはない』 あの二人が遠慮などするだろうか。 するはずはない。 「それはそうだけど。錦君でも口にできるケーキ色々あるでしょ」 『先生に勧められてパウンドケーキを一口食べた』 「えぇ~……それ、クリスマスケーキィ? 若狭さんだよ? 君が一口で止めるようなものを差し出したとか有り得ないだけど。何、君が食べれそうなの用意してくれなかったの」 海輝の記憶では、甘さを控えたケーキなら食べれたはずだ。 過去に彼は海輝の手作りケーキを美味しいと口にしていた。ならば、一緒にクリスマスパーティーで飲み食いするなら、錦も楽しめる様にすれば良いのにと思わないでもない。錦自身が小食だし、本人が良いと言うのだから必要以上に口出しする事も無いとは分かっているのだが、錦に関して努力を惜しむ様なことをしたくないのだ。 『一応、俺の分を別に用意はしてくれたが、食べなかった』 「何で?」 『……クリスマスケーキを食べたら、お前が贈ってくれたどら焼きが食べれない』 「え!?」 そうなの? クリスマスケーキには興味はないが、海輝のプレゼントは直ぐに口にしてくれたのか。 『甘さ控えめで、美味しかった。大きさも丁度良い。しかし、顔入りの食べものとは、気分的に凄く食べにくい。久々に見たお前の顔だが……何て言うか、輝いて見えた』 可愛すぎる。 世界の可愛さが此処にある。 国宝級の可愛さ、いや、世界遺産級の可愛さだ。 身悶え乍ら受話器に顔を擦り付ける。

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