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まさに今、歴史が動いた。
冷やかな瞳で見返してきた、出逢ったばかりの十歳の錦。
笑顔と言えば嘲りを僅かにのせた嘲笑か、挑発的に口角だけを上げた程度の表情の変化のみ。おまけに辛辣なお言葉付と来た。
もしもし、表情筋壊滅していませんか貴方?
小学生でその表情はかなり今後の人生が心配なんですが。
なんて疑ったほどの無表情が、過ごす時間を重ねるにつれ、顔を赤くして怒ったり、拗ねたり、ごくたまに笑ったり、恥じらったり、目を潤ませて泣くまいと睨みつけてきたり。
可愛くて仕方が無かった。
劣情など持ち合わせていなくとも、海輝の前だけで変わる表情に他者との違いがはっきりと線引きされていて優越と喜びを感じた。
真っ直ぐと天に向かい伸びる竹の如くしなやかに強く成長を遂げる。
今も変わらない、凛とした眼差し。
真っ直ぐな背中。美しい立ち姿。
健康的に伸びた手足。
すっぽりと収まっていた手が、今は指を絡ませる程にまでに大きくなった。
幼い頃からその成長を見続けていた、可愛い義弟。
七・八年後に食ってやろうかと冗談交じりで笑ってはいたが、手を伸ばしもぎ取るはずの果実がまさか、こんな風に手元に転がり落ちて来るとは。
まさに今、歴史が動いた。
その瞬間を海輝は目の当たりにする。
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