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誠心誠意頼めば人の心は動くもの
錦が遊びに来ると言う事で、海輝は今朝マンションのデザインに携わった老舗家具店に電話をしてダイニングテーブルを頼んだ。
オーダーメイドは納期までに最短でも二月半、カスタムメイドも似たようなものだった。
それでは年末に間に合わない。
それならばと、撤去したテーブルセットを買い戻す事にした。
特別デザインしたそれは非売品扱いで保管している状態だった。
処分品にならなかっただけでも軌跡と言える。
交渉し買い戻すことが出来たが、問題が生じた。
納品が海輝の希望日に間に合わないのだ。
進学や就職に合せ一人暮らしする人が増える四月に向けて、制作依頼を受けた家具の件数や打ち合わせで人手が足りない事と、海輝の所に納品する前に品質確認を再度行わなくてはならないからだ。
「問題ありません。希望通り二十八日の十三時に納品可能です」
「素晴らしい。じゃぁ、僕、その日は十三時から一時間ほど抜けるね。オーナーにしぶられなかった? 腕は良いけど、頑固だろ」
「閉店間際に訪問しましたので多少は」
「海輝様が言ってるのは、時刻の問題じゃない。あの、お言葉ですが海輝様も無理を言い過ぎなのでは」
如月がおずおずと言葉を挟むが海輝は笑顔を浮かべるにとどめる。
「良くOKでたね。僕は断られたよ」
「誠心誠意頼めば人の心は動くものです」
「蓮城君の口から「頼む」と言う言葉が出て来るとは」
何かを察したのか如月の顔が引きつる。
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